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競馬PRESSBACK NUMBER
「仕事しづらいと思ったことはない」JRAの場内実況を担当したアナウンサー・藤原菜々花の夢「女性が実況するメリットを見つけたい」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byHirofumi Kamaya
posted2024/03/24 17:02
3月3日、女性アナウンサーとして史上初めてJRAの場内実況を担当した藤原菜々花
仕事道具の双眼鏡は「重くて手が震えた」
入社すると勉強に励んだ。
「私は自分のことをまだまだ競馬ビギナーだと思っていて、いろいろな魅力が詰まっているスポーツでまだまだ全然知らないという前提で話すんですけれども」
と断ったうえで続ける。
「専門用語がほんとうに多いスポーツなので、先輩が何を喋っているか分からない状態で、暗号や呪文を聞いているかのようなスタートでした。分からない単語があったらその都度聞いてノートに書いていきました。あとは毎週末ひたすらレースを見て振り返りをしたり、入社したての頃は先輩に指定していただいたレースの予想を繰り返したりしました。なぜこの馬を本命にしたのか、なぜこの馬を2番手3番手にしたのか根拠を書いて先輩に送るのですが、予想するには前のレースを見る必要があるので必然的にレースを見ることになり、けっこう力になりました」
レースを追う双眼鏡も壁の1つだった。
「最初は先輩が置いていた双眼鏡を使っていましたが、とにかく重くて手が震えてしまって。双眼鏡で馬を追い続けるのも意外に難しくて、馬のスピードって速いので気づいたら視界からいなくなっちゃっているんですよ。探していたらもう最後の4コーナーに、ゴールに到達していたり」
「競馬実況は男性の仕事」だった過去
競馬の実況という高いハードルに加え、藤原が飛び込んだ世界は、長く「男性社会」とも言われた場所だ。藤原も以前の状況を耳にしたことがあるという。
「なぜだったのか理由を聞いたことはないんですけれども、いかに女性が働きづらかったかは聞いたことがあります。そもそも入れてもらえない。取材の現場に女性が立ち入ることが認められていなかった時代もあったとは聞いています」
でも、伝え聞く時代と自ら体感する今日の違いも感じる。
「男性が多いなというのは正直感じます。取材させていただいたり、現場に行ったりというところで圧倒的に男性の方がやっぱり多い現場ではありますが、仕事しづらいなって思ったことはまったくないですね。私はたぶん競馬界で活躍されている女性の方たちのおかげで働きやすい時代に入社していて、女性もウェルカムな時代に入社ができて、男女比では少ないながらすごく大切にしていただいているというか、会社にも背中を押してもらえる環境なのですごく感謝しています」
門戸が徐々に開かれる一方で、実況に関してはまた事情が異なる。1971年に女性として初めて実況中継を担当した井口保子がいて、また地方競馬の実況中継で活躍する女性の例はあるが、実例は極々限られる。その理由はさまざま語られてきたが、最たるものは「女性の声のトーンが向かない」だっただろう。
「確かに実況の部分では、最後の直線の場面をまくしたてるように速いスピードで描写をしていくので、女性の声だとキンキン聞こえて、ちょっと言い方がきついですけれど、うるさい、と思われることがあったのかなというのが1つ。あとは迫力という点で考えたときに声のもともとの性質上、男性と女性を対比したときに女性が勝ることはなかなかないのかなというところで、『競馬実況は男性』と言われていたんじゃないかなって思います」