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「もう誰も勝てない」ピーター・アーツが“20世紀最強の暴君”だったころ…カメラマンが見た“明るすぎる素顔”「ピーター、真面目にやってくれ」 

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長尾迪

長尾迪Susumu Nagao

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photograph bySusumu Nagao

posted2024/03/23 17:10

「もう誰も勝てない」ピーター・アーツが“20世紀最強の暴君”だったころ…カメラマンが見た“明るすぎる素顔”「ピーター、真面目にやってくれ」<Number Web> photograph by Susumu Nagao

“20世紀最強の暴君”と称された若き日のピーター・アーツ。スタジオ撮影の現場はいつも笑いが絶えなかった

 また、いつかの後楽園ホールでのこと。同所の記者席はカメラマンスペースのすぐ後ろにある。撮影中に記者席から背中を指で押す者がいた。試合中なので無視をすると、あろうことか今度は脇の下をくすぐり始めた。意地になった私は完全に無視を決め込む。試合が終わるやいなや鬼の形相で振り返ると、そこには「ヒサシブリ、ゲンキ?」と満面の笑みで手を振るアーツがいた。その朗らかな笑顔に、思わず脱力してしまったことは言うまでもない。

横浜アリーナが揺れたマイク・ベルナルドとの激闘

 話を試合に戻すことにしよう。

 暴君の進撃を止めろ――それが1996年の『K-1 GRAND PRIX』前のファンや関係者の合言葉だった。それほどまでに、当時のアーツは強くて完璧なファイターだったのだ。

 グランプリ初戦の相手はハードパンチャーのマイク・ベルナルド。半年前の試合で両者は対戦したばかりだったが、そのときはアーツが右フックでKO勝利していた。

 優勝するためには1日で3試合を勝つことが必要とされるトーナメント。陣営としては、前回40秒で倒した相手に余計な時間を使いたくないという作戦だったのだろう。アーツは1ラウンドから積極的にキックとパンチを交えて攻め込む。だが、その姿勢が裏目に出た。1ラウンド終了間際、ベルナルドのカウンターが顔面にヒットし、ふらつくアーツ。大歓声と悲鳴で、ラウンド終了のゴングが聞こえないほどだった。

 ベルナルドはパンチの手ごたえを感じたのか、2ラウンド開始からラッシュをかけてアーツがダウン。その後はアーツがなんとか攻撃を凌ぎ切り、勝負は最終ラウンドへ。KOするかダウンを取り返さないと負けが決まるアーツは、一気に距離を詰めて前に出る。しかしベルナルドが冷静に対処しながら左フックを打ち抜くと、アーツは真横に飛ぶようにマットに沈んだ。

 その瞬間、1万7000人を超える観客は総立ちとなり、横浜アリーナが揺れた。止まない拍手と「ベルナルドコール」は両者がリングを後にしてもしばらく続いていた。キックボクシング史上に残るこの激闘は、私にとっても未だにK-1のベストバウトだ。

【次ページ】 「最高の試合だった」アーツ自身が選ぶ“ベスト”とは?

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