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「彼は親友だった」あのピーター・アーツが号泣… “傷だらけの暴君”はなぜ戦い続けたのか? カメラマンの心が震えた「40歳、K-1最後の戦い」
posted2024/03/23 17:11
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph by
Susumu Nagao
アーツが感情をあらわにした“ふたつの激闘”
「彼はとても近しい親友だった。試合だけでなく、テレビ番組やコマーシャルの仕事も沢山したよ。プライベートでも多くの時間を一緒に過ごした。わざわざ結婚式にも来てくれたんだ」
ピーター・アーツが振り返る“彼”とは、2000年8月24日に急性前骨髄球性白血病で他界したアンディ・フグのことだ。そのときのことはよく覚えている。フグの入院先だった病院で、緊急の記者会見が開かれた。会見場には見たこともないくらいの数の報道陣が来ていたが、アーツはメディアなど目に入らないかのように号泣し、ただただ悲嘆に暮れていた。
そんな関係性を聞いて、あらためて思い出した。普段はスマートで冷静な試合をするアーツが、感情をあらわにし、どうしても勝ちたいという気持ちを見せた試合があったことを。
ひとつは後で触れる2010年のセミー・シュルト戦。そしてもうひとつは、2000年12月のシリル・アビディとの戦いだ。アーツは2000年7月にアビディと初対決してKO負けを喫している。翌月にグランプリの開幕戦でアビディとのダイレクトリマッチが組まれたが、怪我によるTKOで連敗。フグが亡くなったのは、この敗戦の4日後だった。
本来であれば出場資格のないアーツだが、主催者推薦枠として急遽12月のトーナメントに出場することになった。1回戦の相手は因縁のアビディ。序盤にアーツがダウンを奪ったが、バッティングで眉の上をカット。2度目のバッティングを受け、傷口が広がり血が止まらない。
感情をむき出しにして戦うアーツだが、激しい流血と傷の深さからドクターチェックが入る。左目の上がざっくりと大きく切れている。通常なら試合を止められる状態だ。アーツはドクターに何やら強硬にアピールしているが、私の位置からでは聞こえない。おそらくは「試合を止めるな、やらせろ」と言っていたに違いない。