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格闘技PRESSBACK NUMBER
「もう誰も勝てない」ピーター・アーツが“20世紀最強の暴君”だったころ…カメラマンが見た“明るすぎる素顔”「ピーター、真面目にやってくれ」
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2024/03/23 17:10
“20世紀最強の暴君”と称された若き日のピーター・アーツ。スタジオ撮影の現場はいつも笑いが絶えなかった
試合形式は前年同様の8選手によるトーナメント。彼は初戦を得意のハイキックでKO勝ちすると、準決勝に要した時間は僅か63秒。右ストレート一発でパトリック・スミスをマットに沈めた。アーツは余力を十分に残して決勝へ進み、佐竹雅昭を相手に危なげない判定勝利でK-1の頂点に立った。
その後のアーツは年をまたぎながら6試合連続でKO勝ちを続けた。その勢いのまま95年のグランプリに出場。準々決勝を62秒でKO。準決勝の難敵ホーストとの試合は、延長までもつれ込んだが判定で勝利。決勝戦の相手はハードパンチャーのジェロム・レ・バンナだったが、97秒で倒し切り、2年連続の王者となった。もはや誰も彼を倒すことはできない――そんな空気さえ漂っていた。アーツは1993年9月から1996年3月の2年半の間に20連勝をマークしたが、その内の16試合がノックアウト勝利。KO率は驚異の8割であった。
大爆笑のスタジオ撮影「ピーター、真面目にやってくれ」
その強さ故に“20世紀最強の暴君”というニックネームを与えられたのはこの頃だと思うが、素顔のアーツはいつもニコニコして、笑顔を絶やさない。その天真爛漫な性格こそが、彼がファンや関係者に慕われる理由だろう。
K-1の公式スタジオ撮影を担当していた私も、「ピーター、真面目にやってくれ」と何度言ったことか。カメラを向けた一瞬だけはシリアスな顔を見せるが、すぐにニタニタ顔になる。最初の頃は撮影するのに苦労したものだった。
だが、大会の度に撮影を行うので、次第に慣れてきた。私の顔を見るなり「わかっている、シリアスにアングリーフェイスだよな、任せておけ」と口にする。こちらも気持ちが入り、ノリノリで「オー、イエー!」を連発したら、なぜかそれがアーツのツボにハマったようで、笑いが止まらなくなった。アーツは「ちょっと待ってくれ」と気合いを入れ直すのだが、カメラを構えただけで笑い始める始末だ。
ある日、ゲラゲラと笑いながらその理由を教えてくれた。
「君が『オー、イエー!』と言いながら撮るだろう。それがまるで“アレの男優”みたいで、思わず笑っちゃうんだよ。馬鹿にしているつもりや悪気はないから!」