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“飛ばないバット”狂騒曲のウラ側で…青森山田の2選手が異例の「木製バット」を選んだワケは? 背中を押した監督が語った「納得の理念」
posted2024/03/22 11:03
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
JIJI PRESS
「キン」ではなく「カン」の擬音。
乾いた打球音に、甲子園がざわつく。
京都国際との初戦。1回、1アウト二塁の場面で、観衆が青森山田の3番・對馬陸翔を目で追っていた。彼らの興味はセカンドフライという結果ではなく、それを木製バットで打ったことだった。
そして、4番・原田純希のタイムリーで先制した直後に打席に立つ、5番の吉川勇大も木製バットを手にし、視線が注がれる。レフト前ヒットを放ち、スタンドがさらに沸く。その吉川は、同点の9回にもスリーベースでチャンスを作り、続く伊藤英司のサヨナラヒットを見事にお膳立てしてみせた。
今年のセンバツから正式に採用された、いわゆる「飛ばない」とされる新基準バット。
大会4日目と序盤ながら、各校の監督や選手は「詰まったら飛ばない」「打球が伸びない」と、こぞって苦心を口にする。
「飛ばないバット」騒動の中で登場した「木製」
そんな話題がセンバツを席巻するなか、突如として現れた“木製バット使用者”は、異端であるように衆目の対象となった。この決断をした對馬と吉川を後押ししたのが、監督の兜森崇朗である。
「ふたりはもともと、器用なバッティングができる選手ではないので」
兜森のにやついた表情が、わざと卑下していることを窺わせる。
実際、すぐに目を真っすぐに据えて、木製バットを持たせたことはふたりの資質によるものだと述べた。
「彼らには、前提である『よくバットを振れる』という能力が備わっていますし、センター中心のバッティングができています。木製なのでバットが折れるというリスクはありますけど、その心配をさせないくらい、ふたりには合っていると思っています」
監督の見立て通り、吉川は新基準のバットを「使ったことがない」と答えた。