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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「美談にしちゃいけない」ボクサー・穴口一輝の逝去前日に、青木真也がインタビューで語っていたこと「格闘技がメジャーになる必要はない」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/02/15 17:01
急遽決まったジョン・リネカー戦を終えて、インタビューに応じた青木真也
「僕の発言が、ストッパーになるんじゃないかと」
付け加えるなら、青木自身も考え方を変えて(アップデートして)いる。以前は減量に失敗し、計量オーバーとなった選手を厳しく批判していた。しかし現在では減量で損なわれる健康のほうにより着目している。青木の意見が常に正しいとは筆者も思わない。ただ彼が、時には意見を変えるだけの思考力を持っているのは確かだ。
「格闘家って、若いうちは狂気の世界に住んでるんです。対戦相手を“ぶっ殺してやる”なんて思っている。それくらい勝ちたい、認められたいという気持ちが強い。でも勝ったり負けたりして、酸いも甘いも味わって変わっていく。少なくとも僕はそうですね。40すぎてまだ“勝ちたい”とか“もっと強い相手とやりたい”なんて言う人は“正気?”って思いますよ。むしろカッコつけであってほしい。
僕は今、正気の世界に少し触れるくらいのところまで来た。そういう僕の発言が、なんらかのストッパーになるんじゃないかと。今さら有名になろうとかメチャクチャ稼ごうとか思わないし、練習だってやりたくなきゃやらない。まあ好きだからやると思うんだけど。切迫したものがない中で格闘技をやって、そこでどんな風景が見られるのかが楽しみでもありますね」
かつて青木真也は“狂気の人”だった。しかし40歳の今は狂気という魅力に頼らず“正気”の自分を見せようとしている。それがつまらないとか寂しいとか、もはやそういう段階も通過しているのだ。そこまで含めて、この世界では“変な人”なのかもしれないが、青木真也からしか聞けない言葉があるのは間違いない。