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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「美談にしちゃいけない」ボクサー・穴口一輝の逝去前日に、青木真也がインタビューで語っていたこと「格闘技がメジャーになる必要はない」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/02/15 17:01
急遽決まったジョン・リネカー戦を終えて、インタビューに応じた青木真也
たとえばモータースポーツにはクラッシュがある。しかしそれはスピードを競った結果の事故だ。格闘技の場合は相手の頭部を殴って倒す。つまりクラッシュを目的としたレースのようなものだと捉えることも可能なのだ。だからこそ、安全面については考えうる限り厳重でなくてはならない。
「その安全面というのも、ルールだったりドクターチェックだったりは“申し訳”程度なんだと思わないと。いま格闘技が社会に認められてるのは奇跡でしかない。なのにこれを当たり前だと思ってしまうのが間違いのもとで。今ある枠の中でチートして勝とうとするから過度な減量に走ったり、ドーピングに頼ったりする。そんなの健康にいいわけがない。僕だって、クスリ使ってたらとっくに体がボロボロになってたかもしれない」
穴口一輝の逝去前日に、青木が語っていたこと
青木は昨年12月の試合後に意識を失い、開頭手術を受けたものの亡くなったボクサー・穴口一輝選手にも言及している。SNSには「年間最高試合が死亡事故なのはその競技を疑わざるをえない」と書き、批判もされた。穴口選手が倒れた試合は、昨年の国内ベストバウトに選ばれていた。
多くのボクシングファンが指摘するように、穴口選手が亡くなったのはベストバウトに選出された直後のこと。その死自体が選出につながったわけではない。それは青木も分かっている。言いたいのは“それ以前”の問題についてだ。筆者が青木にインタビューしたのは穴口選手が亡くなる前日のこと。青木はこう言っていた。
「美談にしちゃいけないんですよ。僕の考えからすると、事故が起きた時点でいい試合なわけがないんです。評価対象にならない、0点の試合のはずで」
青木は“ボクシング批判”をしたいわけでもない。ケガ、特に頭部へのダメージを前提とした競技全般について根本的に考え直そうと言っているのだ。殴られた選手が失神して倒れるさまを見て興奮するというのは、いったいどういうことなのか。