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「あれだけ蹴っても倒れなかった…」武尊を筋断裂に追い込んだ王者スーパーレックはなぜ敗者を称えたのか? 互いに限界を超えた激闘のウラ側
posted2024/02/01 17:01
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
ONE Championship
クライマックスは3ラウンド終了間際に訪れた。
王者スーパーレック・キアトモー9に武尊が挑んだONE Championshipフライ級タイトルマッチ(1月28日、有明アリーナ)。コーナーにスーパーレックを押し込むや、武尊はボディブローを連打し一瞬ながら王者の顔を歪ませたのだ。日本が舞台ということも手伝い、大観衆はドッと沸いた。
スーパーレックはなぜ武尊のボディに耐えられたのか
強いタイ人ファイターはちょっとやそっとのことで痛みを表に出さない。出したとしても、ダメージの裏返しで微笑を見せる程度だ。しかしながら、このときのスーパーレックは違っていた。試合後、彼は本音を吐いている。
「武尊選手のボディブローをもらって効いてしまった。本当に倒れると思った」
すぐにでも倒れたかっただろうが、なんとか耐え抜いた。なぜそうすることができたのか。その理由はスーパーレックの次の一言に集約されている。
「その後は生き残るために全てを出し切りました」
スーパーレックは身をもって知っていた。王者でいるかどうかで、ONEの待遇には雲泥の差がある、と。「生き残るため」という言葉は、決して大げさな表現ではなかった。
昨年からONEはチャトリ・シットヨートンCEOの母国であるタイへ本格的に進出。週1回の割合で、ムエタイの本場ルンピニースタジアムで定期戦を打つようになった。他のムエタイ興行に比べ基本給のいいプロモーションの出現によって、現地のファイターたちはこぞってONEに上がりたいと思うようになったという。
当初、武尊の対戦相手としてセッティングされていたロッタン・ジットムアンノンは、昨年9月に実現したスーパーレックとの大一番で1000万バーツ(約4000万円)のファイトマネーを手にした。「10万バーツもらえれば一流」といわれていたムエタイ界において、ONEのファイトマネーがいかに破格かわかるだろう。
タイでも人気者のロッタンには及ばないものの、ロッタンに勝利したスーパーレックも相応のファイトマネーをもらっているはずだ。結果が自身の待遇に直結することを考えれば、武尊の強烈なボディショットを「生き残る」という一心でこらえるのも当然だった。