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「対策できるほど藤井さんは甘くない」菅井竜也31歳が語った藤井聡太への強烈な思い…王将戦は「全く別物の戦い」「挑戦できるのは楽しみ」
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/02/04 06:00
現在進行中の王将戦7番勝負で藤井聡太に挑んでいる菅井竜也八段。対戦前にその胸中を明かしていた
「まず、挑戦を決めてから対策ができるほど藤井さんは甘くない、ということですね。出遅れた感覚があったので、負けた後は、いつも藤井さんと指すことを頭に置いて研究にも対局にも臨んでいます。あと、自分の中では指すと決めていたのに、大きく均衡が崩れてしまう可能性の高い手ではなく、平均点を取りにいくような中途半端な手を指したことがありました。普段なら絶対にそんなことしないのに。後から思うと、注目もされているし、いい将棋を指さないといけない、なんていう思いもあったのかもしれません。あの失敗を糧にしたいです。ただ、あれから8カ月くらい経っているので、お互いに修正して自分も向こうも強くなっている。全く別物の戦いでもあります」
1992年、岡山市郊外の生まれ。17歳で棋士になった。棋界が人ならざるものに脅かされる前の2010年代前半に「菅井流」「菅井新手」という新定跡を開拓した。'17年の王位戦では独創的な序盤戦術によって羽生善治を翻弄し、タイトルを得た。
AIを礎とした学究肌が居並ぶ現代において、人間の力を信じ、滾るファイティングスピリットを盤上に表現する棋士である。AIが評価しない振り飛車を上位24人(名人、A級、B級1組)で唯一指し続ける。
――王将挑戦に至る過程の中、他棋戦での活躍も含め、31歳にして黄金期を迎えているように映ります。
「ちっちゃい頃から指してきた振り飛車のことが最近になって少しだけ分かってきた感覚はあります。タイトルを獲った7年前より強くなってきたとは思いますけど、今の自分がいちばん強いとは思ってないです。まだこれからなので」
――分かってきたもの、とは。
「自分の中にある感覚的なもので、どう説明したらいいか分かりません。中学の頃からお世話になっている久保(利明九段)先生には自分の考える疑問を昔からぶつけてきましたが、一から十まで教えてもらえることはなかった。でも、今になって久保先生の言っていた意味が分かるな、と思える時がある。そのような感覚的なことです。評価値で大きくマイナスになることをやっているので、より感覚が大事なんです。振り飛車はAIとは合わないけど、自分とは合う。AIが違うことを言うなら言うことを聞こう、じゃ棋士をやってる意味はない」
「振り飛車としていい勝負をした」に価値は感じない
――昨年、叡王戦の開幕前日会見で「自分が負ければ自分以外の振り飛車党では絶対に勝てない」と宣言しました。あの言葉を言える棋士はなかなかいないと思います。
「今の時代、これから数年の間に振り飛車を指して上の方で活躍する人は現れないと思う。だから、今の振り飛車ファンなら自分に期待するしかない気もします。ただ、勝負なので。振り飛車としていい勝負をした、ということに価値は感じない。勝負は絶対に勝たなきゃいけないものなので」
<続く>