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安納サオリ「見たら惚れさせる自信はあるので」人気女子レスラーはなぜスターダムでも埋もれなかったか? 新王者の決意「世間との架け橋に」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2024/01/20 11:01
2度目の挑戦でスターダム“白いベルト”王者に輝いた女子プロレスラーの安納サオリ
デビューしたアクトレスガールズから独立してフリーになり、独自の道を模索しながらも思うように活躍できない。そんな中でスターダムの試合や選手のコメントをチェックしていた。とりわけ、同じ団体で同じ日の同じ試合でデビューしたなつぽいは嫌でも目に入った。以前はタッグを組み、新人時代にスターダムでともに修行したなつぽいの輝きを、素直には喜べなかった。「この感情をレスラー人生の伏線にする」という思いで力をつけ、結果を出してきた。だからこそ安納はスターダムでも埋もれなかった。
安納が両国国技館で着ていた白いコスチュームは、2020年に作ったものだ。フリー1年目、コロナ禍の中で悪戦苦闘し、プロレスをやめたいとすら思った時期の「トラウマのあるコスチューム」でベルトを巻くことに意味があった。
「刺激的なカードがたくさんできるんじゃないかな」
だからおそらく、白いベルトの防衛ロードは“伏線回収”でもあるのだ。そこにも安納の覚悟が宿る。スターダムで再びタッグを組んだなつぽいとは、タイトルをかけて闘う約束をした。彼女が復帰するまでベルトを守らなくてはいけない。しかしこれから迎える挑戦者は、気持ちが通じ合う選手ばかりではないだろう。
「ずっと見てきましたからね、スターダムも白いベルトも。これはみんなが狙ってきたベルトだし、特にこだわりが強い選手がいるのも知ってます。きっと刺激的なカードがたくさんできるんじゃないかな。だって安納サオリがチャンピオンになったんですよ。外国人以外で所属じゃない選手が白いベルトを巻いたのは初めてでしょう。スターダムの所属選手はいろいろ思ってるはず。というか思わないとダメじゃないですか。私が逆の立場だったら絶対思ってますよ」
2月4日の初防衛戦で闘う挑戦者はスターライト・キッドに決まった。白いベルトにこだわりを見せてきた選手の1人であり、スターダム生え抜きであることにも強いプライドを持っている。対立の構図としては抜群だ。
スターダム参戦以来、自分についてもプロレスについてもより深く考えるようになったという安納。防衛を重ねていくためには、“絶対不屈彼女”であることがさらに重要になるとも言う。
安納サオリ「見たら惚れさせる自信はあるので」
2023年のテーマは“安納サオリのブランド”を高めることだった。白いベルトの王者として迎えた2024年は「ベルトとともに輝いて、世間とプロレスの架け橋になりたい」と言う。
「もっとプロレスを届けたい。相手の強烈な技を、別に避けたっていいのにあえて受け止めて、返して、レフェリーが3カウント数える間に肩を上げなきゃいけない。そうやってボロボロになりながら立ち上がる姿から伝わることっていっぱいあるはず。私自身がプロレスを知らなかったから、そう思えるんです」
もともとは役者志望。アクトレスガールズに誘われ、プロレスを生で見たのは練習を始めてからだ。それまでは練習していることの目的も意味も分かっていなかった。
「そういう私だから、プロレスを知ると感じるものが凄くあるんだって分かるんですよ。今もプロレスを知らない人、見たことがない人はたくさんいる。その方たちにとってのきっかけ、一歩目に私がなりたい」
そしてこう付け加える。
「見たら惚れさせる自信はあるので」
初めて見た観客を一目惚れさせる。それが以前からの変わらぬ身上だ。大げさだとは思わない。白いベルトを巻いた“絶対不屈彼女”を見たら、きっと誰だって恋に落ちる。