濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
安納サオリ「見たら惚れさせる自信はあるので」人気女子レスラーはなぜスターダムでも埋もれなかったか? 新王者の決意「世間との架け橋に」
posted2024/01/20 11:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
スターダムのトップ戦線、その風景が一気に変わった。昨年12月29日の両国国技館大会。新王座決定戦を制して“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダムを獲得したのは舞華。“白いベルト”ワンダー・オブ・スターダムはMIRAIに勝って安納サオリがチャンピオンになった。
安納はこれが2度目の王座挑戦。11月に初めてMIRAIに挑んだ試合は30分時間切れ引き分けだったから、白いベルトのタイトル戦では負けなしということになる。何度も挑戦してベルトを巻けない選手がいる中で、異例の“無敗戴冠”だ。
彼女はスターダム所属ではなくフリーランス。といって“王座流出”という雰囲気はない。安納は4月から、新人時代以来のスターダム参戦。レギュラーメンバーとして6人タッグ王座、タッグ王座も手にしている。
ビジュアルが際立つ安納だが試合ぶりには泥臭さもある。キャッチフレーズは“絶対不屈彼女”。技を繰り出す姿だけでなく受けっぷり、苦痛に歪む表情まで魅力だと言っていい。もともと演劇をしていた安納は「技はセリフ」だと言う。試合は対戦相手との会話であり、セリフのやり取りからドラマを紡ぎ出す。
MIRAIも“技で会話する”タイプの選手だ。タイトルマッチが決まると、SNSで挑発し合い記者会見で乱闘を展開するような選手も多い。だが2人はそれをしなかった。11月の初戦で、互いの実力を認め合っていたからだ。
「安納サオリの試合には“ブランド”がある」
MIRAIはスターダム恒例の「シンデレラトーナメント」を2022年、2023年と連覇。白いベルトは赤白2冠王だった中野たむから奪った。その実力者ぶりの反面、自分でもアピール、自己主張が課題だと認めている。挑戦者にはそこを指摘されてきたし、安納も1戦目の調印式で「なんでそんなに支持がないの?」という言葉をダイレクトにぶつけている。
ただ、実際に30分フルタイムの試合をして見方が変わったと安納。
「(試合前の認識は)間違ってましたね。口下手な感じも含めてMIRAIの個性なんだと今は思います。入場の時から風格を感じました。白いベルトを背負ってるんだなと」
2戦目の調印式、両者は睨み合ったもののクリーンに握手。ことさらに何かしゃべったり煽ったりする必要を感じなかったと安納は言う。
「とにかくMIRAIに勝ってベルトを巻きたい。それだけだったので」
MIRAIは2戦連続でタイトルをかけて闘った安納の印象を、こんなふうに語っている。
「(安納は)強いし巧いし、結局最後に全部もってっちゃうのが悔しいですね(苦笑)。闘い方にオリジナリティがあるというか、自分の特徴を活かしてるんでしょうね。流行りに乗ってない。ブランドものって、高くても買う人がいますよね。流行りに関係なく長く使い続ける。安納サオリという選手の試合にも、そういう“ブランド”があると思います」