猛牛のささやきBACK NUMBER
「航空写真で見るとつながっているみたい…」山本由伸の“お隣さん”オリックス・頓宮裕真が多くを語らなかった幼馴染への思い「ずっと一緒に…」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKYODO
posted2024/01/15 17:00
昨年5月13日のソフトバンク戦で勝利し、お立ち台に上がった“お隣さん”の山本由伸(左)と頓宮
中心的存在だった頓宮
以前、山本に子供の頃の頓宮について聞くと、こう話していた。
「ジャイアン!(笑)。いや、悪口じゃなくて、いい意味でですよ。みんなの中心的存在だったので。おもしろいし、野球うまいし、優しいし。人気者でした」
一方、小学生時代の山本は小柄で線も細かった。ただ、運動能力は同学年の中でずば抜けていた。投手、内野手と様々なポジションをこなしたが、6年生の時は主に捕手で、その年、伊部パワフルズは岡山県の大会で優勝し、初めて全国大会に出場した。
山本と頓宮は中学からは別々のチームに進み、頓宮は岡山理科大学附属高から亜細亜大に進学。山本は地元を離れ宮崎県の都城高に進学し、そこで飛躍を遂げて高卒でオリックスに入団する。
再びつながった深い縁
2人の野球人生が再び交わるのは、山本がプロ3年目だった2019年。頓宮がオリックスにドラフト2位で指名され入団してきたのだ。
山本は、「びっくりしたし、嬉しかったですね。めっちゃ不思議な感覚です」と喜んでいた。
入団当初、内野手登録だった頓宮はその後、捕手にこだわりたいと志願し、入団3年目の2021年にお隣さんの開幕バッテリーを実現させた。
ただ、その開幕戦は7回4失点で山本は負け投手に。次に2人がバッテリーを組んだ4月28日の楽天戦は、被安打3、失点0で9回を投げ切ったが、味方が援護できず引き分けに終わった。その翌週の5月5日の西武戦は、6回1/3、5失点でマウンドを降り、勝利を挙げることはできなかった。それが、2人がバッテリーを組んだ最後の試合となった。
その後、頓宮は打者として存在感を増していった。一塁手としての出場が増え、ファーストからマウンドの山本に歩み寄って声をかける場面が多く見られるようになった。
ふと漏らした由伸への想い
ただ周囲が思うほど、本人たちは「お隣さん」を特別に意識していなかったのかもしれない。
岡山の田舎で育ったお隣さんの2人が、とてつもなく狭き門をくぐってともにプロ野球選手となり、しかも同じチームで活躍するなど、奇跡と言っても大げさでない。だから見ている者はつい感傷に浸ったり、特別視したくなってしまう。だが本人たちは中学以降別々の環境に身を置き、それぞれに出会いがあり、必ずしもお互いが一番近い存在ではなかったかもしれないし、ちょっとした照れもあったかもしれない。次第に「お隣さん」についてあまり多くを語らなくなっていった。
それでも頓宮と話しているとふと、山本への愛着が漏れることがあった。
昨年5月13日の試合で、初めて山本と一緒にお立ち台に上がり、その翌日、こう言って微笑んでいた。
「ずっと(一緒に)立ちたかったんですけど、なかなか。よかったです。(山本が)どっか行く前にできて(笑)。今年ワンチャンかなーと思っていました」