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熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
「初恋の女性と二度と会えない」号泣スアレス16歳が「噛みつき、W杯でゴール阻止ハンド」狂気のFWになるまで〈親友メッシと再タッグ〉
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byMike Ehrmann/Getty Images
posted2024/01/07 17:01
21世紀を代表するストライカーの1人と言っていいルイス・スアレス。ただし若き日の行動は世界中で物議を起こした
アヤックス在籍中の2010年11月、PSVとのダービーマッチでマーカーの左肩に噛みつき、7試合の出場停止処分を受けた。
2011年10月には、プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッド戦でフランス代表左SBパトリス・エブラを「ネグロ」を呼び、人種差別行為としてリーグから8試合の出場停止処分と罰金を科されている(注:これについて、スアレスは「彼をスペイン語で『ネグロ』と呼んだのであり、侮蔑的な意味合いは全くない。綴りは同じでも、英語の『ニグロ』とは意味が違う」と釈明している)。
プレミア、W杯の大舞台で立て続けに噛みつき
2013年4月には、またしても噛みつき事件を起こした。プレミアリーグのチェルシー戦で相手選手の右腕に噛みつき、10試合の出場停止処分を受けた。さらに、2014年W杯のグループステージ・イタリア戦で相手CBジョルジョ・キエッリーニの左肩に噛みつき、ウルグアイ代表の公式戦9試合出場停止、4カ月間の活動禁止、10万スイスフラン(約1680万円)の罰金という厳罰を受けた。
約3年半の間に3度も噛みつき事件を起こしたことについて、本人は「相手選手が憎くて噛みついたわけじゃない。重要な試合になるとアドレナリンが出て興奮状態になり、自分で自分を制御できなくなるんだ」と説明。その一方で、「(ボクシングの)マイク・タイソンのように対戦相手の耳を引きちぎったのとは全く違う」、「噛みついたといっても、相手選手に重大な怪我をさせたわけではない。暴力的なタックルとは異なり、ほとんど無害な行為なんだ」と弁明する。また「以後、継続的に精神科医のカウンセリングを受けている。あんなことは、二度とやらない」とも語る。
マラドーナと共通する二面性
彼のこのような言動を見ていて思うのは、ディエゴ・アルマンド・マラドーナと共通する二面性だ。
マラドーナは、前述のように1986年W杯メキシコ大会の準々決勝イングランド戦でゴール前へ上がったボールをイングランドGKピーター・シルトンと競り合い、巧妙に右手で弾きながらも頭に当てたように見せかけた。VARがある現在であれば間違いなく取り消され、イエローカードが出されていたはずであり、イングランド人は「詐欺だ」と憤った。
ところが、このスキャンダラスなプレーの直後、ハーフウェイラインの手前からイングランド選手5人を次々と抜き去って「世界フットボール史上最高のゴール」を決めてみせた。ピッチ外でも、薬物常習者にしてアルコール依存症であり、ナポリ在籍中のマフィアとの黒い交際も含め、様々な意味で善と悪の相反する面を持った男だった。