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MMA元世界王者がなぜ「宅配便の下請け会社」を? 勝村周一朗が語る、格闘家のキャリア・収入問題「ファイトマネーだけで生活できるのは…」
posted2023/12/26 11:05
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
本人提供
勝村周一朗はMMA(総合格闘技)の老舗団体である修斗の元世界王者にして、神奈川でジム「グランドスラム」を計5店舗持つ経営者兼指導者である。RIZINでは所英男のセコンドとしてもおなじみだ。
また2013年からプロレスラーとしても活動を始め、いくつものタイトルを獲得。さらに今年12月、新たな会社を設立した。株式会社勝運。勝村運送を略した社名で、軽貨物を扱う。
格闘技以外の会社を作ることは、以前から考えていたそうだ。理由の一つは、選手のため。
「プロ格闘家といっても、格闘技だけで食っていくのは大変です。特に若手は。ファイトマネーだけで生活できるのは、日本だとRIZINの上位選手くらいでしょう。理解のあるスポンサーがついてくれたらいいんですけど、人付き合いも得手不得手がありますからね」
プロ選手、プロ志望者はアルバイトで生活費を稼ぐパターンが多いのだが、不定期で決まる試合や計量などに合わせてシフトを外れるのも簡単ではない。正社員ならなおさらだ。
「だからウチでは、選手がジムのインストラクターをやることで“格闘技だけで食える”環境を作ってきました。でも選手が増えてくると、インストラクターの数が飽和状態になってしまう。ジムの店舗数もすぐには増やせませんし。格闘技ジムというか、フィットネスも含めたジムの数そのものも飽和状態だと僕は見てますね」
「宅配便の下請け」事業を選んだ理由
勝村は自分のジムを“格闘技に理解のある勤め先”にした。それでも仕事が足りない。そこで格闘技以外の会社を、となった。
「もともとパーソナルトレーニングの生徒さんだった人がビジネスパートナーになってくれて“こういうことができるんじゃないか”と。軽貨物の運送というのは、簡単に言うと宅配便の大手の下請け。この業界は参入がしやすいというか、めちゃくちゃ仕事があるんです。Amazonが普及して、コロナ禍で通販がより盛んになって。しかも大手の労働環境が改善される傾向なので、人手が足りないぶん下請けに仕事がくるんですよ」
一般的には、下請けは個人で動くフルタイムの仕事。勝村の会社では、1人分の仕事量をチームで分け合っている。
「午前中、運送の仕事をして午後に練習をする組と、午前中が練習で午後が仕事の組と。それだと収入も半分なので、足りない分はインストラクターの仕事も細かく分担するという形ですね。それならまあまあ生活していける。半日の仕事プラス、ジムでの指導が1日1クラスくらいであれば、練習する時間も十分取れます」
実際に仕事を進めてみた感触として、やはり運送の仕事は格闘家の体力が活かしやすいと勝村。一方で「きつすぎない」というのもメリットだそうだ。
「格闘家を目指しながら土木系の仕事をする人もいるんですけど、体力的にはけっこうきついんですよね。その体力を練習に使ってほしいという面も出てきてしまう」