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MMA元世界王者がなぜ「宅配便の下請け会社」を? 勝村周一朗が語る、格闘家のキャリア・収入問題「ファイトマネーだけで生活できるのは…」 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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posted2023/12/26 11:05

MMA元世界王者がなぜ「宅配便の下請け会社」を? 勝村周一朗が語る、格闘家のキャリア・収入問題「ファイトマネーだけで生活できるのは…」<Number Web> photograph by 本人提供

今年12月に軽貨物の配送を手掛ける株式会社勝運を立ち上げた勝村周一朗(左)

「選手のセカンドキャリア形成にもなればいい」

 勝運は社員2人からのスタート。毎月少しずつ増やしていきたいという。格闘家としてのさまざまな事情が分かる勝村が社長だから、融通もききやすい。

 1月からは、ビジネスパートナーの仕事に関連して建築解体業もスタート。産業廃棄物処理業にも進出したいそうだ。

「産廃は単発、週単位の案件も多いので。そうすると格闘家だけじゃなく、フリーとか若手のプロレスラーの仕事にもなるかなと」

 プロレスの世界も裾野が広がり、専業ではない選手も多い。そこは格闘技業界と似ていると勝村。

「ただプロレスラーは土日プラス平日に試合が入ることもあるので。産廃処理だと空いてる日だけ働いてもらって日当を支払うとかもできそうなんです」 

 現実的な話をすると、収入のために試合を詰め込みすぎるのもよくない。疲労がたまり、集中力が欠けた状態ではケガのリスクも高くなる。「試合が多すぎると相手にケガをさせてしまうかもしれない」と言う選手も。

「それなら無理して試合せずに、ちょっと収入が足りないなっていう時だけ働けるような場所もあるといいんじゃないかと思うんですよ。セカンドキャリアの形成にもなればいいですし。若手の頃は僕の会社で働いて、全盛期は試合だけで稼いで、引退したらまた会社に戻るみたいな」

児童養護施設で働いていた経験も

 会社を設立したもう一つの理由は、児童養護施設出身者の雇用だ。勝村は現役時代、児童養護施設で働いていた。そこから“リアルタイガーマスク”というキャッチフレーズがついたことも。

「大学を出た後、格闘家を目指してフリーターをしてたんですよ。その頃、先輩に“暇だったらちょっと手伝ってよ。子供好きだったよね”と言われて養護施設にボランティアで行ったんです。子供たちと遊んで、晩ご飯食べて、じゃあ帰ろうかとなったら子供たちに“帰らないで”と泣かれてしまって。仕方ないから一泊して、朝になって学校に送り出す時もまた泣かれて。結局そのまま就職しちゃいました。情が移るのを見越してたのかな。先輩にハメられましたよ(笑)」

 さまざまな事情で親と暮らせない幼児から高校生までの「親代わり」のような仕事。施設の中にマットを敷いた「勝村道場」ではレスリングを教えた。

 自分の練習は子供たちが学校に行っている時間帯か、夜遅く。プロ格闘家としてのキャリアを重ね、ランキング戦線で闘うようになると非常勤に。最終的には退職したが、卒業生との交流は今も続いている。毎年、クリスマスには子供たちにプレゼントも。

【次ページ】 「高校を卒業したら施設を出なきゃいけないので…」

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