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井上尚弥を“ダウン寸前まで追い込んだ”男の証言「気づいたら突然、倒れていて」再戦でまさかの惨敗…ドネアが痛感した“井上の恐ろしさ” 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byNaoki Fukuda

posted2023/12/27 17:03

井上尚弥を“ダウン寸前まで追い込んだ”男の証言「気づいたら突然、倒れていて」再戦でまさかの惨敗…ドネアが痛感した“井上の恐ろしさ”<Number Web> photograph by Naoki Fukuda

井上尚弥に“2度敗れた”ノニト・ドネア

 モンスターとの決戦を前にして平常心を保つのは百戦錬磨のベテランですら難しかった。そして迎えた試合当日、待っていたのは悪夢のような敗北だった。

「気づいたら突然、倒れていて…」

 やはり悔やまれるのは右ストレートをカウンターで食らった初回終了間際のダウンだろう。ドネアは試合後、SNSで行ったライブ配信で次のように発信している。

「気づいたら突然、倒れていて、レフェリーがカウントを数えていた。立ち上がってコーナーを見たらレイ(レイチェル夫人=トレーナーも兼務)が『拳を上げて!』と叫んでいたんだ。それで自分がダウンしたことに初めて気がついた。あれはこれまで食らった中で最もハードなパンチだった」

ドネアが残した言葉

 日付をまたいだころ、チームのメンバーはさいたま市内のホテルのスイートルームで骨を休めていた。前王者と夫人の会話は自ずと「これからどうするのか」というテーマにたどりつく。11月で不惑を迎える年齢を無視することはできない。そしてあの負け方だ。ここまでぐうの音も出ない敗北は、ドネアにとって初めてだった。

 それでも、本人は少なくともこの場では引退という言葉を口にしなかった。ただし、こう付け加えたという。

「レイが私のトレーニングを見て、身が入っていないとか、怠けていると感じたら、続けることはできないと思う」

 ドネアはこの晩、一睡もせずに朝を迎えた。寝ないのはいつもの試合後と同じだったが、これほど悶々とした夜を過ごしたことはなかったろう。

 取材に対し、ドネアが寄せてくれたコメントが実はもう一つある。それは愛する日本のファンに宛てたものだ。

「日本は大好きだ。いつもサポートしてくれてありがとう。皆さんに感謝しています」

 シンプルで短いメッセージから失意の大きさが伝わってきた。

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