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「ジャブが他の選手の右ストレート並。右はその3倍」井上尚弥に挑んだ元世界王者・河野公平の告白… 妊娠中の妻は「井上くんだけはやめて」
posted2022/06/05 17:03
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Getty Images
WBA&IBFチャンピオンの井上尚弥(大橋)とWBC王者のノニト・ドネア(フィリピン)によるバンタム級3団体統一戦(6.7さいたまスーパーアリーナ)が目前に迫ってきた。2019年11月以来となる両雄のリマッチ“ドラマ・イン・サイタマ2”は井上の有利が伝えられるが、その井上に5年半前に挑戦したのが元WBAスーパーフライ級王者の河野公平さんだ。死に物狂いで“モンスター”から金星を挙げようとした河野さんが、衝撃の経験と現在の井上を語る――。
「井上くん、当時から無敵だったじゃないですか」
河野さんがWBOスーパーフライ級王者だった井上に挑戦したのは2016年12月30日の有明コロシアムだった。河野さんはこの4カ月前、WBA王座の4度目の防衛戦でルイス・コンセプシオン(パナマ)に敗れて王座から陥落していた。2度世界王座に就いて、コンセプシオンに敗れた時点で35歳。悪くない引退のタイミングであり、本人も半ばそうなるだろうと覚悟していた。
「もう世界戦はない、終わりだなと思ってました。それが試合から1カ月くらいして立て続けに世界戦のオファーが来た。ああ、まだ自分も捨てたもんじゃないんだと。こういう話はすぐに返事をしないと流れてしまいます。やるしかない、と思いました」
井上以外のオファーはIBF王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)への挑戦、そして香港の人気選手レックス・ツォとアウェーの大観衆の前で試合をするというオファーだった。言うまでもなく、モンスターへの挑戦は3つの選択肢の中で最も成し遂げることの難しいミッションだった。
「井上くん、当時から無敵だったじゃないですか。無敵の選手に挑戦したいという思いはありましたね。いや、もしWBAのタイトルを持っていたらなかった話かもしれない。僕は世界タイトルを5回くらい防衛しないと統一戦をする資格がないと、勝手に考えていたんです。だからベルトがなかったことも逆に良かった。失うものは何もなかったんです」