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厚底シューズ使用で「あるケガ」が続出…速さのウラで、指導者の嘆き「靴に頼り切ってしまっている」「人間の使い方次第」
posted2024/01/03 06:04
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph by
Nanae Suzuki
今年で第100回を迎える箱根駅伝。近年では当たり前となったのが、カーボンプレート搭載の「厚底シューズ」だ。大学時代に箱根駅伝を出走した筆者が明かす「厚底シューズ」がもたらした功罪とは――。『箱根駅伝は誰のものか』(平凡社新書)より「厚底カーボンシューズ」の章を抜粋してお届けします。全3回の第2回/前回は#1へ
厚底はなぜ速い?
そもそも厚底カーボンシューズはなぜ速いのか。現在は多くのメーカーが販売しているが、マラソンの景色を変えたナイキのモデルで説明してみたい。
基本的な構造は反発力のあるカーボンプレートを軽くて柔らかく、エネルギーリターンの高い独自素材のフォームにしてソールに挟んでいる。重心を前へ傾けることで、カーボンプレートが屈曲するので、カーボンプレートが元のかたちに戻るときに、グンッと前に進む。そのため緩やかな下り坂を進んでいるような感覚で走ることができる。
また薄底モデルよりもドロップ(爪先部分と踵部分の厚さの差)が大きくなるため、前方への体重移動が滑らかになり、ブレーキがかかりにくい。着地時の横ブレが少なくなり、スムーズに前へ進むことができる。
効果には個人差あり
これらの要因から厚底カーボンシューズを履くことで、ストライドが拡張。それがピッチの減少につながり、後半のペースダウンも小さくなる(厚底のクッション性が着地時の衝撃を軽減させる役割もある)。その結果、速く走ることができるのだ。
ただし個人差が大きく、ある大学の調査では1kmあたり5秒も速くなった選手がいる一方で、ほとんど変化のない選手もいたという。また厚底カーボンシューズの値段は従来の薄底レースシューズ(1万5千円前後)と比べて高額。3万円近くもするため、大学の強化費から購入しているチームもある。