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「どこからも早稲田の名前は出てこないので」出雲駅伝“4年生出走ゼロ”だった臙脂の思惑…全日本&箱根に向けた《花田マジック》の行方
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byNanae Suzuki
posted2023/10/13 17:02
出雲で早稲田のアンカーを任された1年生の長屋匡起。大学駅伝デビュー戦で上々の結果を残した
山口は区間3位にまとめ、4位から1つ順位を上げており、上々の出来のようにも思える。しかし、今季の成長を間近で見てきた指揮官には物足りなく映った。
1万mでは学生屈指となる27分台の記録を持つ石塚は区間7位。3区は留学生も登場するエース区間とはいえ、3人に抜かれた。
「(直前の練習では)調子を上げることに必死で、1km2分50秒を切るようなペースでの練習をあまりしていなかった。そういう意味では妥当な結果ではありましたが……。
前半がうまくいかなかった時点で、後半の選手たちで順位を上げられなかったのは仕方なかったと思います」
前半区間で先頭争いに加わるという、レース前の目論見は外れた。
だが、指揮官はこうも話す。
「調子が良くても悪くても走れる状況であれば、1区〜3区に3人を並べようと思っていました」
大袈裟な言い方をすれば、三本柱と心中するぐらいの覚悟が指揮官にはあるのだろう。万全なコンディションではなくても、あえて茨の道を走らせたのは絶大な信頼を寄せているからでもある。この3人は、全日本と箱根でも早稲田の生命線になる。
「新戦力を試したい」という指揮官の本音
出雲駅伝は、もちろん全力で勝ちを狙いにいく大学もあるが、全日本や箱根を見据えて新戦力を試したいという指揮官の本音も見え隠れする。したがって、思わぬ新戦力の活躍が見られるのも出雲駅伝の醍醐味だ。
今回の早稲田の後半3区間は、4区・工藤慎作(1年)、5区・間瀬田純平(2年)、6区・長屋匡起(1年)と、下級生で組んだ。
特に、最長区間の6区は安定感のある上級生が任されることが多く、この区間に1年生の長屋が抜擢されたことには驚いた。現に、アンカーに起用された1年生は長屋の他にはいなかった。
長屋は7月の士別ハーフマラソンでも好走しており、長い距離を得意としている。今回の出雲も区間6位にまとめ、5位の青山学院大に8秒まで迫った。花田監督も収穫に長屋の走りを挙げている。
また、4区の工藤は、区間順位こそ10位だが(区間5位までは10秒以内の僅差だった)、順位をキープし単独でもきっちりと走れることを示した。
三本柱に比べて評価が若干甘くなるのは致し方ないとして、指揮官はルーキーの走りに及第点を与えた。全日本、箱根でも起用の目処が立ったと見ていい。また、将来、優勝を狙える段になった時のエース候補として、彼らには高い期待を寄せている。