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アルゼンチン戦ドロップゴール、サプライズ選出&緊急出場もレメキ34歳はなぜ活躍できた?「ポジション変更が余裕を与えていた」
text by
野澤武史Takeshi Nozawa
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/10/11 17:00
アルゼンチン戦の後半、一時2点差に迫る40m超えのドロップゴールを決めたレメキ・ロマノラバ。活躍の背景を野澤武史氏が解説する
W杯の3試合を通して目を惹いたレメキの神出鬼没の動きは、その「ステップ」にも秘密があります。陸上やサッカー、バレーボールなど多くの競技に携わり、グリーンロケッツでもパフォーマンスアーキテクト スピードコーチを務める“パフォーマンスの設計士”里大輔氏曰く、「ステップには、カクカク系とスルスル系の2つの種類がある」。つまり、相手を抜くためにカクカクとステップを切っていくタイプと、スルッと滑らかに抜けていくタイプ。それぞれステップの使い方が違うのですが、レメキはそのどちらも使いこなせると言うのです。
「豪脚」ではなく「しなやか」
特徴的なのは、カクカク系のステップを踏む選手は、減速するために踵(かかと)重心に入りやすいのですが、レメキはそれがない。ステップを切りながらも加速し続けていくことができるんです。「そこは天性のものがある」と里さんも驚いていました。さらに、里さんとの出会いによってストライドが大きくなりすぎて足の動きが流れてしまわないように、走り方やステップの踏み方はさらに上達したのではないでしょうか。サモア戦で何回か見せたラインブレークや、アルゼンチン戦で相手DFの隙をスルッと突破していくランは、「豪脚」ではなく「しなやか」でした。天賦の才をさらに磨き上げたからこそ、できたプレーというわけです。
里氏はレメキについて「練習には常に全力で臨む姿勢や、体作り、コンディション管理を徹底しているところは他の選手と一線を画している」と話しとても感心していました。W杯前の国内強化試合では出場機会がなく、ユーティリティー性を買われて“サプライズ選出”されたレメキ。マシレワの故障でチャンスが巡ってきた形ですが、先発した2試合の素晴らしいパフォーマンスから、もし選出されていなかったら、と想像するとゾッとします。
めぐり合わせ、プロフェッショナル
前回大会のレジェンドであるレメキが、代表入りが絶望的な状況でも心折れずに準備を続けていたこと。たまたまかもしれませんが、NECで司令塔を務める機会に恵まれたこと。そして、ピークをしっかりと大会に持ってきたこと。これぞ、プロフェッショナルです。「心技体」に「知」も加えた充実度は年齢を重ねた今なお最高値。アルゼンチン戦後には代表引退の意向を明かしたそうですが、レメキの輝きを増したパフォーマンスに敬意を表し、杯を重ねたいと思います。
(構成:佐藤春佳)
野澤武史(のざわ・たけし)
1979年4月24日、東京都生まれ。慶応大ラグビー部主将を務めた日本代表4キャップのフランカー。現在はユース育成に尽力。「スポーツを止めるな」代表理事。教科書で有名な山川出版社の社長でもある