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藤井聡太がまさかのダメ出し「君はそんなことを言ってるからだめなんだよ(笑)」師匠・杉本昌隆が垣間見た八冠のストイックさ
text by
杉本昌隆Masataka Sugimoto
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/10/13 06:00
八冠を達成した藤井聡太。その素顔を師匠の杉本昌隆八段が明かす
これこれの展開では、こっちの手のほうが、AIの評価は高いだろうなと思うこともあります。しかし、誰でも同じように最善手を選び続けることは難しいのです。個人的に苦手な手、自分の将棋観には合わない手だからやめておこうかな、といった判断を下すこともあります。
同様に、最善ではないがリードはまだ残るはずだから、評価値的には次点の、自分の得意な手を選ぶこともあります。ただ、リードが残ると思っていたら、いつの間にかひっくり返っていることもままあり、やや退嬰的な発想でもあります。
最善手には、自分では気がつかない最善手と、わかってはいても選べない最善手があります。
頭の中でわかってはいる、絶対にこっちを選ぶべきだ、これを選ぶのが最善、これを選び続けたら勝てるだろうとわかっている場合でも、自分の能力では無理そうだと諦めてしまうこともあります。
例えば、30手を超える長い詰将棋のような、最終盤の局面。自分の直感では一目で詰みだと思える。しかし一つ間違えたら、負けてしまう。ギリギリの判断を迫られる場面です。
藤井曲線が示す「自分を信じる力の強さ」
そんな時、その手前の段階で、際を攻めるのではなく、もうちょっと緩やかな、やり直しの保険がきく道にしておこうかなと考えてしまう人が多いのです。しかし、このラクをしようと考えることが落とし穴になります。相手から仕掛けられているわけではなく、自分の考えが罠になってしまうのです。
藤井は、いったん詰みだと確信したら、そこからまっすぐに読み切って最後の局面までもっていく。一目見た瞬間から詰みへと向かう能力がすごい。
結果的に負けるかどうかはさておき、藤井曲線のようにすーっとはいけないことが多く、そこで形勢がもつれるのです。
藤井曲線が示すのは、抜群の読みの能力に加え、自分を信じる力が強いこと。
そのため、真似がしにくいのです。
<続く>