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「お前は試合で“使えない”」「罰として草むしり1週間」部活で普通も“じつは法律的に危ない”監督のパワハラ言動…元野球部の弁護士に聞く
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byGetty Images
posted2023/10/01 11:02
丸刈りの強制、叱咤とパワハラの境目……高校球界の「普通」は、法律的にはどう解釈されるのだろうか(写真はイメージです)
松坂 アウトでしょうね。会社なら間違いなくアウトですし、未成年に対する教育を目的とするスポーツの現場でも、もうダメだと思います。正当な理由があれば、一時的にグラウンドに入れさせないというのは権限としてありだと思いますけど、感情的になって「出てけ!」と言い放ったのであればパワハラと言われても仕方ないと思います。
――「下手くそ!」は?
松坂 それも会社だったらダメですね。言い方にもよりますけど。会社は今、本当に厳しいんですよ。「バカ」「アホ」も、もちろんダメです。
「スタメンで使えないぞ」発言の怖さ
――この前、グラウンドである監督が選手に対して「おまえ、もう使えんぞ」と言っていたんです。これはどうですか?
松坂 今までの高校スポーツの現場ではOKだったんでしょうけど、これからは気を付けた方がいいでしょうね。というのも監督は絶対的な権力者なわけですよ。その人が言う「使えんぞ」という言葉は選手からしたら相当、重い。実際に試合に出させないという選択ができるわけですから。下の者の生殺与奪権を握っていると言ってもいい。だからこそ、そういう権力者の言動を法律で制限し、選手たちの人権を守る必要があるわけです。
――ただ、スポーツの現場って肉体や精神が追い込まれるので、冷静になっている余裕がないというか、普通の会社なんかと比べると、当然、言葉は荒っぽくなると思うんですよ。だから、言った方も、言われた方もわかっているけど、その関係性を知らない第三者から本意ではない解釈をされてしまうこともあるじゃないですか。
松坂 それは本当にそうなんです。なので、そこを汲まずに一般の会社のパワハラ認定の事例に従ったら、おそらくアウトだらけになっちゃうと思います。
アカハラに共通する問題
――体育会系の人の常套句として、厳しい言い方をしたのは「発奮を促すため」というのがありますよね。あの論法は通用するのですか。
松坂 少なくとも、今の若い人たちには通用しないでしょうね。パワハラの裁判でも暴力や暴言が許容される言い分にはなりません。パワハラ加害者は「がんばって欲しいから厳しく言ったんです」ってよく言うんですけど、本当にそう思っていたのなら、もっと建設的な言葉で指導すればいいだけのことですから。今、アカハラがすごく注目されているんです。アカデミック・ハラスメントです。これまで比較的、寛大な処置がとられてきた大学等の教育機関に対する目も、権利意識の高まりによって相当厳しくなってきました。この波は順番的に高校野球の世界にもくると思うんです。今まで許されてきたことでも、許されなくなってくる。
〈#3「では、現場の指導者はどうればいい? 指導の注意点」編へつづく〉