野ボール横丁BACK NUMBER
高校部活のパワハラ…実は“いい監督ほど苦悩”する現場「許される体罰」が消えた今、指導困難校はどう対応すべきか? 弁護士に聞く“注意点”
posted2023/10/01 11:03
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Nanae Suzuki
自主性尊重は「慶応だからできる」の声
――私はすごく嫌いな言い方なのですが、この夏の慶応高校のように自主性を尊重している進学校が結果を出すと、指導者の多くは必ず「慶応だからできるんだよ」と言うんです。つまり、頭のいい子たちだからできるんだ、と。
松坂典洋弁護士(以下、松坂) 慶応だからできるまでは言い過ぎかもしれませんね。
――ただ、確かに指導困難校というのはあるじゃないですか。学力が低く、真っ当な教育環境を整えることでさえ難しい状況なんだ、と。部室で飲酒・喫煙をしたり、ケンカをしたり。昔、選手の喫煙が明るみに出たチームの監督が「うちの学校で喫煙ぐらいかわいいもんやで」とこぼしていて。正直、そうだよなと思えたんです。そのくらい見逃してやってもいいじゃないか、と。指導者の目からみたら、教育現場は決して平等ではないと思うんですよ。身の危険を感じるような、タフな現場もある。そういうところの指導者は、あれもこれもダメだと言われると本当に苦しいと思うのですが、いわゆる進学校よりも幅広い裁量が認められるものなのでしょうか。
松坂 ケンカとかタバコは、もう校則違反だから、校則に従って停学、退学という厳しい処置をとらざるを得ないでしょうね。それは校則に基づく正当な対応だと思います。ただ、そうして他人任せにしてしまうのをよしとせず、問題を起こした生徒と正面から向き合い、愛情をもって強い言葉をかけたり、ときには暴力をふるって更生させたというケースも過去にはあったと思うんです。チームとしても、野球の能力は高いけど野球以外に興味のない生徒たちを監督の強烈な個性と圧倒的な支配力でコントロールして、それでうまくいった例というのもたくさんあるでしょう。おっしゃる通り、高校によっては、そういう指導をせざるを得ないんだという状況があることは理解できるのですが、そういった指導法はやはりどんどん難しい時代になっていくでしょうね。
「愛のムチ」という幻想
――そういう指導者が慕われていた時代もありました。ひと昔前だと、ドラマ『スクール☆ウォーズ』(1984年~、TBS系で放送)の世界ですよね。愛のムチ信仰というか。おまえのためを思って殴る、と。