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「ボールポゼッションは圧倒的にドイツだが…」トルシエも注目する日本×ドイツ戦「日本を本気で倒しにくる素晴らしいテストになる」 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2023/09/09 11:00

「ボールポゼッションは圧倒的にドイツだが…」トルシエも注目する日本×ドイツ戦「日本を本気で倒しにくる素晴らしいテストになる」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

今年2月にベトナム代表監督に就任したトルシエは、今なおアジアサッカーの動向を注視している

──森保監督はW杯後に日本代表の目標も変えました。これまでのようにベスト8を目指すのではなく、W杯優勝を新たな目標にすると。

トルシエ その目標の達成はまだ難しい。言うことは可能だが、選手たちは心の中で実現可能とは感じていないだろう。それは明日、月に行くというようなものだ。月に行くのは可能だが、そのためには膨大な時間を要する。

 2050年までにW杯優勝を成し遂げるのは十分考えられるし、適切な目標設定でもある。目標は実現可能なものであるべきだ。日本にとってそれは準々決勝に到達することだ。今日、日本はベスト8に進めると誰もが思い始めている。選手も監督もサポーターも、日本はベスト8に値するチームだと感じている。

 段階はひとつずつ踏んでいくべきで、もちろんW杯優勝は究極の目標でいつか実現できるだろうが、それを今、目標として設定することが日本サッカーを進歩させるとは私には思えない。日本の進歩という点では、準決勝進出に目標を置く方がより現実的だし効果的だ。

──まずはそこまでのレベルに達することが重要であるわけですね。

トルシエ それぞれの段階を尊重し、着実に達成していく。ただしW杯優勝を目標にすること自体は悪くはない。私も同様にベトナムの目標はW予選突破だと言っている。それが現時点での目標だが、理論上は実現可能とは言い難い。しかし高いところに目標を設定すれば、それぞれが強い責任感を持って努力をする。到達に向けてポジティブな相乗効果をもたらす。日本にとってのW杯優勝、ベトナムにとってのW杯出場は、それぞれの国に希望を与え活力を生み出す。目標の高さが、日本のベスト8進出を後押しし、ベトナムのW杯3次予選進出に勢いを与える。高い目標を目指すことで新たなエネルギーが生まれる。

日本がベトナムに与えた勇気

──アジアカップ初戦でベトナムは日本と対戦します。ベトナムにとって、W杯の日本対ドイツ戦のようなモチベーションになりますか?

トルシエ 私たちベトナムの関係者は、サッカーではすべてが可能だと思っている。日本とベトナムが戦えば、理屈の上では勝者は決まっている。しかしピッチでは、日本がドイツ戦でサプライズを引き起こしたように、ベトナムも日本戦でサプライズを生み出せる。日本がドイツ戦で実現したことは、ベトナムにもオプティミストになれる自信と勇気を与えた。戦う前から負けると思って試合に臨むことはない。

 緒戦はお互い相手の状態を良く知らない。サッカーではすべてが可能で番狂わせが頻繁に起こる。カタールW杯ではサウジがアルゼンチンに勝ったし、私が思い出すのは90年イタリアW杯の開幕戦でカメルーンがアルゼンチンを破った試合だ。グループリーグのそうした番狂わせは枚挙に暇がない。だからベトナムも、日本戦で何かができると思っている。負け犬根性で試合に臨むのではなく、サプライズを生み出す希望を抱いてピッチに立つ。

【次ページ】 アジアトップ10への野望

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