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八冠挑戦・藤井聡太21歳が押された「鬼気迫る一手」…なぜ永瀬拓矢30歳は「人生を変えてくれた」研究相手に逆転先勝できたか〈王座戦〉

posted2023/09/02 06:00

 
八冠挑戦・藤井聡太21歳が押された「鬼気迫る一手」…なぜ永瀬拓矢30歳は「人生を変えてくれた」研究相手に逆転先勝できたか〈王座戦〉<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

圧倒的な勝率を誇る「先手番の藤井聡太七冠」相手に先勝。永瀬拓矢王座は防衛に向けて力強く一歩目を踏み出した

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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Takuya Sugiyama

 第71期王座戦五番勝負は、永瀬拓矢王座(30)に藤井聡太竜王・名人(21=王位・叡王・棋王・王将・棋聖を合わせて七冠)が挑戦している。永瀬が王座を防衛すれば、連続5期獲得によって「名誉王座」の永世称号を取得する。藤井が王座を奪取すれば、前人未到の「八冠制覇」を達成する。社会的にも注目されている大勝負だ。その王座戦第1局は8月31日に神奈川県秦野市「元湯陣屋」で行われた。研究パートナーでもある両者の関係、激闘が繰り広げられた第1局の将棋を、田丸昇九段の解説と写真で振り返っていく。【棋士の肩書は当時】

藤井がデビュー直後に戦った、伝説の『炎の七番勝負』

 藤井竜王・名人が棋士デビューしたばかりの2017年3月。新興のインターネット放送局「AbemaTV」(アベマTV)は、藤井四段(当時14。以下年齢はすべて当時)が若手精鋭、タイトル経験者と対戦する『藤井聡太 炎の七番勝負』の放送を開始した。

 対戦相手は登場順に、増田康宏四段(19=新人王)、永瀬拓矢六段(24)、斎藤慎太郎六段(23)、中村太地六段(28)、深浦康市九段(45)、佐藤康光九段(47)、羽生善治三冠(46)。※持ち時間は各1時間。羽生戦のみ各2時間。

 藤井がいくら有望な若手棋士でも、対戦相手は強敵ぞろいなので、棋士や関係者の間では「2勝すれば上出来」という声が多かった。ただ藤井の師匠の杉本昌隆七段は「藤井が7戦全勝しても、私は驚きません」と語った。藤井の将棋を身近で見てきて、真の実力を知っているゆえのコメントだった。

 そして『炎の七番勝負』は杉本の予想に近い、藤井四段の6勝1敗という結果に終わった。藤井と初対戦した羽生三冠は、「しっかりした将棋でミスが少ないです。自分の14歳のときと比較して、あの完成度は信じられません」と語り、藤井の強さを絶賛した。

すでに「藤井曲線」が見える中で唯一勝利した永瀬

 ある将棋ソフトが七番勝負の対局を解析したグラフによると、勝った棋譜には悪手がほとんどなく、有利な形勢を拡大しながら勝ち切る上昇パターンだった。現在にも通じているそうした藤井将棋を評して「藤井曲線」という言葉が生まれたが、それは四段時代からの特徴だった。

 その七番勝負で藤井四段に勝った唯一の棋士が永瀬六段だった。戦型は永瀬の「ゴキゲン中飛車」。中盤まで互角の戦いが繰り広げられたが、終盤で藤井が指した受けの疑問手が響き、永瀬が攻め切って勝った。

【次ページ】 「人生を変えてくれたのが藤井さん」「永瀬さんと指して…」

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