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八冠挑戦・藤井聡太21歳が押された「鬼気迫る一手」…なぜ永瀬拓矢30歳は「人生を変えてくれた」研究相手に逆転先勝できたか〈王座戦〉
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/09/02 06:00
圧倒的な勝率を誇る「先手番の藤井聡太七冠」相手に先勝。永瀬拓矢王座は防衛に向けて力強く一歩目を踏み出した
永瀬「八冠の大記録については、自分とは関係ないことだと思っています。自分で結果を出して、名誉王座を目指して頑張りたいです。藤井さんの考え方や価値観は、すべてにおいて素晴らしいと感じています。それは自分にとって大きな財産です。互いに手の内は分かっていますが、戦いにくさはありません」
藤井「永瀬王座とのタイトル戦は、昨年の棋聖戦に続いて2回目。今回は挑戦者として対局できるのがうれしいです。互いの棋風や考え方を知っていますが、さらに工夫したところ、成長したところを出せるかどうかが、ポイントだと思います。陣屋で対局するのは初めてで、庭が広くて対局室からの眺めがよいです」
藤井が語る「陣屋事件」、永瀬の3年ぶり和服姿
「元湯陣屋」は1918年に創業された老舗旅館で、数多くの将棋のタイトル戦が行われてきた。囲碁の対局を含めると、300局以上になるという。
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1952年(昭和27)には、升田幸三八段が木村義雄名人との王将戦の一戦で、対局を拒否した「陣屋事件」が起きて物議をかもした。藤井は前記の記者会見でその件について、「有名な話なので聞いたことがあります。升田先生のほうに、いろいろな葛藤があったと感じています」と語った。真相は70年たった今でも、未だに不明である。
陣屋は、新宿から小田急線に乗って約1時間と近い。通常は多くの棋士、女流棋士が観戦に訪れる。しかし王座戦第1局では、メディアの取材依頼が殺到した事情によって、棋士たちに業務以外での来場は控えてほしい、との要請が主催者からあった。それは異例のことだった。
永瀬と藤井の対戦成績は、永瀬が5勝11敗と負け越しているが、後半の8局は4勝4敗の五分。直近の今年2月のA級順位戦では永瀬が勝った。また、永瀬は過去4期の陣屋での王座戦で4勝していて、縁起の良い対局場である。
永瀬は近年のタイトル戦で、戦いやすいという理由で洋服を着用してきた。しかし、今期の王座戦の対局規定では和服が原則として義務となり、3年ぶりに和服で対局に臨んだ。
振り駒でまたしても藤井の先手番に決まったが
王座戦第1局で恒例の「振り駒」が行われ、藤井の先手番に決まった。先手番での勝率がかなり高いので、大きなメリットである。実は藤井は今年、王将戦、棋王戦、名人戦、叡王戦、棋聖戦、王位戦の順にタイトル戦を戦ったが、第1局の振り駒で名人戦以外はいずれも先手番となり、この6タイトル戦で先勝した。指運ならぬ「駒運」も持っていたのだ。