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八冠挑戦・藤井聡太21歳が押された「鬼気迫る一手」…なぜ永瀬拓矢30歳は「人生を変えてくれた」研究相手に逆転先勝できたか〈王座戦〉
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/09/02 06:00
圧倒的な勝率を誇る「先手番の藤井聡太七冠」相手に先勝。永瀬拓矢王座は防衛に向けて力強く一歩目を踏み出した
永瀬は、藤井の将棋に打ち込む真摯な姿勢と、序盤から時間をたっぷり使う妥協のない指し方に共感を覚えた。また、大棋士になる片鱗を感じたという。後日、自分から藤井との「練習将棋」を依頼した。
永瀬は2016年の棋聖戦五番勝負で羽生棋聖に挑戦し、2勝1敗と勝ち越したが、2連敗して初タイトルを逃した。あと一押しの実力を伸ばす起爆剤として、藤井との申し合いが必要だと思ったのだ。
「人生を変えてくれたのが藤井さん」「永瀬さんと指して…」
その後、永瀬は藤井の地元の愛知県に出向き、師匠の杉本が設けた名古屋の研究室で、公式戦さながらの力のこもった練習将棋(持ち時間は各30分)を重ねた。朝10時から始めて1日に2局指した。局後の検討を含めて4時間もかかる将棋もあり、永瀬が最終の新幹線で帰京することもあった。
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夏休みの時期には藤井が東京に行き、永瀬が研究室にしている都内の将棋クラブの一室で指した。
両者はこれまでに、月に2、3回のペースで100局以上は指している。コロナ禍の頃は、パソコンによるオンライン対局で続けた。藤井の師匠である杉本は「藤井と盤上で激しいラリーを続けられる数少ない棋士が永瀬さん。両者は同志のような関係です」と語っている。
永瀬は2019年に叡王と王座の二冠を獲得した。「藤井さんと指し続けたことで、タイトルを獲得できました。自分の人生を変えてくれたのが藤井さんです」と、就位式で挨拶した。藤井も同じ思いのようで、「永瀬さんと指して、勉強になることばかりでした。それで自分の棋力が引き上げられたと思っています」と語った。
両者がタイトル戦で対戦するのは、昨年の棋聖戦(藤井が3勝1敗で防衛)に続いて、今年の王座戦が2回目。練習将棋はしばらく休止となる。
永瀬は、正月でも研究に励むほど将棋一筋の生活を送っている。自分を厳しく律していることから「軍曹」の異名がある。唯一の趣味は、漫画やアニメを見ることだが「見続けると廃人になる」と言って自制している。ちなみに、好きな作品のひとつは『盾の勇者の成り上がり』(作者=アネコユサギ)。
第1局前日の会見で両者が語ったこと
王座戦第1局の前日に、対局場の「元湯陣屋」で記者会見が行われた。両者は、次のように語った。