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八冠挑戦・藤井聡太21歳が押された「鬼気迫る一手」…なぜ永瀬拓矢30歳は「人生を変えてくれた」研究相手に逆転先勝できたか〈王座戦〉 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2023/09/02 06:00

八冠挑戦・藤井聡太21歳が押された「鬼気迫る一手」…なぜ永瀬拓矢30歳は「人生を変えてくれた」研究相手に逆転先勝できたか〈王座戦〉<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

圧倒的な勝率を誇る「先手番の藤井聡太七冠」相手に先勝。永瀬拓矢王座は防衛に向けて力強く一歩目を踏み出した

 永瀬王座に藤井竜王・名人が挑戦した王座戦第1局の戦型は、角換わりとなった。昨年の棋聖戦では6局(2局の千日手を含む)のうち、4局が角換わり腰掛け銀だった。ただ本局では、永瀬が後手番ながら右銀を四段目に進めて先攻し、棋聖戦とはまったく違う展開となった。それが事前に用意した作戦だったようだ。

 藤井は一段飛車の好形に構え、永瀬の仕掛けに呼応して反撃した。そして、▲6五角と中段に打って永瀬の攻めをけん制し、同時に相手玉にも利かした。永瀬は攻め続け、一進一退の攻防が繰り広げられた。

 藤井は角を切って4筋にと金を作り、盤面の中央に駒を集めて中段を制圧した。さらに▲4七玉と安全圏に上げた。

鬼気迫る永瀬の「強靭な一手」とは

 一方の永瀬の2二にいる玉の守り駒は銀1枚のみで、不利な形勢と思われた。しかし、相手玉から遠く離れた桂香をと金で取ったのが冷静な手段だった。後に飛車取りに打った△2六香や△3四桂で迫っていった。藤井は永瀬の迫力に押されて疑問手を指し、形勢はいつしか混とんとした。

 101手目の局面で、両者は持ち時間の5時間を使い切り、1手60秒の秒読みが約50手も続いた。

 その間の永瀬の指し手は鬼気迫るものがあった。自陣に金銀を打って藤井の寄せをきわどく残し、さらに△5一飛と自陣に打ったのが強靭な一手。最後は藤井の中段玉を見事に即詰みに討ち取った。

 永瀬は150手もの激闘を制して、第1局に勝利した。王座防衛と名誉王座の取得に向けて、後手番での勝利は大きかった。

 一方の藤井にとっては、痛い逆転負け。タイトル戦での先手番の勝利は9連勝で止まった。ただ昨年の永瀬との棋聖戦では、第1局に敗れた後に3連勝して防衛した例がある。八冠の可能性はまだ残っている。

 王座戦第2局は9月12日に兵庫県神戸市で行われる。両者にとって、ともに負けられない大一番だ。

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