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負けたらブームが終わる…なでしこジャパンが背負った“世界一の重圧”とは? 宮間あやが明かした本音「恐怖ですね。銀座のパレードの時だって…」 

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西川結城

西川結城Yuki Nishikawa

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photograph byGetty Images

posted2023/08/05 11:02

負けたらブームが終わる…なでしこジャパンが背負った“世界一の重圧”とは? 宮間あやが明かした本音「恐怖ですね。銀座のパレードの時だって…」<Number Web> photograph by Getty Images

2011年W杯決勝では澤穂希の同点ゴールをアシストした宮間あや。W杯優勝後という難しい時期に主将を務めた

「私には、あの時のなでしこは『勝ってしまった』という表現がしっくり来るんです」

 そう切り出したのは、永里だった。2017年夏からアメリカのクラブに所属する彼女は現在、シーズンオフの3カ月限定でオーストラリアでプレーしている。遠く離れた場所から、彼女も当時の思いを寄せた。

現在はアメリカNWSLのシカゴ・レッドスターズでプレーする永里優季。自身のYouTube(https://www.youtube.com/@yukinagasato17/videos)でW杯で躍動する後輩たちのプレーを解説している ©︎Getty Images現在はアメリカNWSLのシカゴ・レッドスターズでプレーする永里優季。自身のYouTubeではW杯で躍動する後輩たちのプレーを解説している ©︎Getty Images

「私たちは、勝ってしまったんです。いろんなタイミングや運、もちろん力もあって勝てたんですけど、アメリカやドイツに常に勝てる実力はまだなかった。ロンドン五輪が終わった時も『このまま普通にやっていたら勝てなくなる』という感触があった。でも、もちろん国民の期待は膨らむ。だからみんな必死にプレーしたし、同じような危機感や情熱を持っている仲間が揃っていたからこそ突き進めた。でも、自分たちが自分たちの現在地を一番わかっていました」

 パスを回し、屈強な相手を翻弄していく。流麗で美しかった、なでしこのサッカー。外から見ていると、盤石のチームに映っていた。

 ただ、彼女たちは水面の下で必死にそのか細い足を掻き続け、もがいていた。勝者と扱われながらも「自分たちは決して強くない」という肌感覚に襲われる日々だった。

 日陰で苦しみながらも戦ってきた。だからこそ、彼女たちの拠り所、存在意義。それは余計に、なでしこという集団だった。

“甘えない”永里を包み込む宮間たち

 永里は元々、「ストライカーには向いていない、本当はそこまでエゴイスティックな人間ではない」と自らを評する。でも、FWとして誰よりも鋭利にゴールを目指すべく、自分を点火するスイッチを入れた。その結果、「自分はチームの中で異質なタイプだった。FWとしての鋭さをなくす怖さがあったから、あえて他人に甘えなかった」という。

 彼女が浮いた存在だという報道がされたこともあった。ただ、そんな永里を包み込んだのが、宮間らの優しさや絆。このチームが最も武器にしていたものだった。

「葛藤している感情や『しんどい』なんてことは絶対に口にしない。でもそれを察してくれるのが、あやだったり。みんなが私の個性として受け入れてくれた。だからいろんな国でプレーしてきた私にとっても、あのチームは特別。みんなサッカーに情熱的で、仲間のために戦える。ピッチで感じ合い、集団で勝つことを追求する。これって当たり前にできることじゃないですから。もう二度と、あんなメンバーとサッカーができる日は、来ないと感じます」

 宮間の話を聞きたい。この取材を通して、一貫して思い続けてきたことだ。

 2016年秋に所属先の岡山湯郷を退団後、宮間は一切選手としてプレーしていない。時折サッカースクールや講演会に呼ばれることはあるようだが、サッカー界の中でも彼女の今を知る者は少なかった。誤解を恐れずに言えば、“消えた存在”となりかけていた。

 その宮間が口を開いた。地元千葉県内のとある喫茶店。現れた彼女は小柄で、スキニーパンツを穿くその足もか細い。あらためて、この体で世界と渡り合い、国民の期待を一身に背負っていたことを考えると、少し胸が詰まった。

 宮間はすべての言葉をゆっくりと噛み締め、回想するようになでしこを語っていく。

「自分にとっては、とにかく幸せな時間だった」という第一声に、彼女の心根の優しさと多感さを見た。嘘のない、真っ直ぐなその声。耳目が彼女に傾いていった。

【次ページ】 「個人として評価されるのが、嫌い」

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