野ボール横丁BACK NUMBER
1年前の大阪桐蔭「球場の空気に飲まれた」前田悠伍の発言は本音か? 西谷監督「誘導されて言っただけと思う」“番狂わせが待たれる”王者の宿命
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/08/24 17:00
大阪桐蔭の前田悠伍(当時2年)
「2つの条件がそろっていた。内野が前に出たぶん、二塁ランナーがリードを広めにとれた。あと、打球も弱かった。二塁ランナーは迷いなく突っ込めたと思います。ベンチの全員が『ゴー!』って思っていました」
高校野球において、二塁走者が本塁まで到達する時間は7秒から8秒程度だ。勢いよく前進してきた大阪桐蔭のセンター、海老根優大がボールをグラブに収めたとき、二塁走者の松本竜之介はすでに三塁ベースを回っていた。
強肩の海老根の送球はショートバウンドでホームに届く。が、それよりもわずかに早くヘッドスライディングした松本の体がホームベース上を通過していた。
球場が沸騰する。ユニフォームを泥だらけにした松本が立ち上がり、右拳を宙に突き刺す。
5-4。
土壇場で下関国際が試合をひっくり返した。
坂原がしみじみ言う。
「うちの勝因をもう一つ挙げれば、9回に初めて勝ち越したのがよかったんでしょうね。これが7回とかに勝ち越していたら、わからなかった。ここで初めてリードを許して、相手は最終回ですから。究極のプレッシャーだったと思うんですよ」
「球場の空気にのまれた」発言の真偽
その裏、大阪桐蔭打線は、4番・丸山からという好打順だった。にもかかわらず、見せ場を作ることができぬまま三者凡退で攻撃を終える。
試合後、エース格と言ってよかった2年生の前田は涙に暮れた。報道によれば前田は最終回を振り返り、〈球場の空気にのまれた〉と語っていたという。
意外だった。いかにも勝気そうな前田が、そんなことを言うとは思えなかったからだ。西谷はこう庇う。