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1年前の大阪桐蔭「球場の空気に飲まれた」前田悠伍の発言は本音か? 西谷監督「誘導されて言っただけと思う」“番狂わせが待たれる”王者の宿命
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/08/24 17:00
大阪桐蔭の前田悠伍(当時2年)
「そう誘導されて言っただけだと思います。自分からは言わないですよ。僕は別にそんな風に思ってない。けど、周りが、そういう風に持っていくもんで」
実際にどのようなやりとりがあったかはもはや知りようもないが、スポーツ現場の囲み取材ではよくある話と言えばそうだった。
大阪桐蔭が「追われる展開」の空気
大阪桐蔭はこれまでも相手の応援が異常な熱気を帯びるケースを何度も経験してきたし、用意周到な西谷のことだから展開次第でそうなることも十分予想していたはずだ。まったく影響がなかったということはないにせよ、そんなことで萎縮するほど大阪桐蔭の選手はひ弱ではない。
西谷が「あんときもしんどかったですね……」と思い出したのは、通算4度目の夏制覇を果たした2014年の決勝、三重戦である。「あんとき」も、下関国際戦と展開がそっくりだった。
4-3と1点リードで迎えた9回表。大阪桐蔭が1アウトから2者連続安打を許すと、球場は一瞬にしてアウェーになった。三重を応援する手拍子と声が風圧となり大阪桐蔭ナインにのしかかった。
西谷が続ける。
「もう周りが全部、三重の応援団みたいになっていましたから。あんときの方が、もっとすごかったんじゃないですか。ちょうどタオルを回すのがブームだった頃で」
判官贔屓の“逆風”
ちなみに現在は、ファンの「便乗応援」を抑制する意味で、甲子園ではタオルを頭上で振り回す行為は禁止されている。
「感情のスポーツ」とでも呼ぶべき高校野球において、こうした判官贔屓の災禍に晒されるのは、ある意味では、王者の宿命でもある。そして、大阪桐蔭は、こうした逆風を何度となく跳ね返してきたからこそ、今の地位まで上り詰めたのだ。
西谷は自分に言い聞かせるように話す。
「今は、そういう流れになると、自然な盛り上がりというよりは、言葉は悪いけど、悪ノリみたいな感じにもなる。うちの場合はそれが余計に大きくなるというのはわかっていることなので」
〈つづく〉