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大谷翔平が辞退、イチローも固辞…HRダービーは、なぜ一流選手に敬遠されるのか?「テレビ局の都合で何度もルール変更」「スイング乱し0本の選手も」
text by
四竈衛Mamoru Shikama
photograph byNanae Suzuki
posted2023/07/09 11:02
7月に入り、ホームランダービーに出場しないことを表明した大谷。なぜ選手にとって「負担」となっているのか、HRダービーの裏側を解説する
現時点では、エントリー8人のトーナメント方式を維持し、タイムアウト(休憩可能)を導入、飛距離440フィート(約134メートル)以上2本で30秒のボーナス時間を得るなど、初めて見るファンには簡単には理解できないようなルールまで強引に制定し、数時間にわたる「フリー打撃」を、全米中継のテレビ番組として提供することに落ち着いた。
賞金総額は250万ドル(約3億5000万円)
NPBの場合、優勝賞金は100万円と、試合前の「余興」の域は出ていない。だが、メジャーの場合、HRダービーは、球宴前日恒例の「メーンイベント」。19年以降は、優勝賞金100万ドル(約1億4000万円)をはじめ、エントリー料を含め総額250万ドル(約3億5000万円)の高額イベントとなった。基本的に、球宴に選出された選手に主眼を置くものの、「出場資格」に規定はない。昨年、2022年シーズン限りでの現役引退を表明していたアルバート・プホルス(カージナルス)が特別参戦したように、話題性を重要視するのも、いかにも米国のビジネスらしい。
さらに、高額賞金となったこともあり、低年俸の若手スラッガーにとっては、魅力十分の舞台となった。初出場した19年に優勝した新人ピート・アロンソ(メッツ)は、自らのメジャー最低年俸(約55万5000ドル=当時)の倍額にも近い100万ドルを獲得。コロナ禍で中止となった20年を挟み、21年にもエントリーした末、見事に連覇して年俸以上の賞金を手にしたことが話題を集めた。
実戦とは程遠いスイング
その一方で、HRダービーの「弊害」が、球界内で強く認識されていることも間違いない。端から見れば、豪快な「ショー」でも、日々、課題に取り組む野球選手が、常日頃、他人に見せるための練習をすることはない。無論、より遠くへ飛ばし、スタンドを沸かせたい。だからこそ、実戦とは程遠いスイングを繰り返してしまう。
03年、HRダービーに参加したブレット・ブーン(マリナーズ)は、力み過ぎたあまり、打撃投手のスローボールにもかかわらず、通常では見られないような空振りを繰り返した末、柵越え「0」に終わり、スタンドの失笑を買った。それほど、見せようとする打撃は難しく、本来のスイングを乱してしまう。