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杉原愛子23歳、復帰戦で優勝の“サプライズ”はなぜ起こった? 最新演技に見えた“女子体操オリンピアン”の誇り「パリ五輪選考の台風の目に…」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/26 17:11
6月の種目別選手権ゆかで復帰し優勝を飾った、東京五輪代表の杉原愛子
「セカンドキャリアも考えて新しいことをしていきたい」
「アマチュアスポーツは引退という言葉に縛られるイメージが強いと思っています。私は誰もやっていないことをするのが好きで、今はセカンドキャリアも考えて新しいことをしていきたいという思いがあるので、『一区切り』というニュアンスにさせていただきました。
今は最終的な目標をどこに定めるかについて、多くの選択肢を持っている状況。審判の勉強をしたり、エキシビションをやったり、体操の講習会に行ったり、さまざまなことをやっています」
杉原は15歳からナショナルチームに入り、足かけ8年にわたって世界と闘い続けていた。積年の負荷で身体は万全ではなく、また、20年3月に右足首の舟状骨を手術、21年10月に左膝を手術していたという背景もあり、総合的に考えて「一区切り」としたということが理解できた。
競技生活に一線を引いた後、「多くの選択肢」を持つことができるのは実績を残したアスリートだからこそ。実際、昨年6月以降も学生コーチとして選手の指導に当たりながら週に3回ほど体を動かすことを継続したのは、エキシビション出演のためというのはもちろんのこと、周囲から寄せられていた「パリ五輪を目指して欲しい」という声を選択肢のひとつとして引き出しに残しておきたいという思いがあったからに違いない。
最新演技に感じた「オリンピアンの誇り」
それから約10カ月。まずは一番好きな種目であるゆかの演技から再強化に乗り出し、日本体操協会が定める全日本種目別選手権の参加規定に則ってビデオ審査に応募した。今回の全日本種目別選手権出場権はビデオ審査をクリアして得たものだ。
もともとゆかに関しては、村上茉愛ら、この種目を得意とする選手が多かったため、杉原が特別目立つことはなかったが、全日本種目別選手権では2015年に3位になり、2019年は2位、2021年1位、2022年2位と確かな実力があった。
もう一つの理由は、ただ出るだけではなく、「五輪2大会出場のプライド」を示してこそという覚悟を持っていたことだ。
杉原は優勝を決めた後の取材エリアで「今大会の出場選手で、オリンピック2大会に出場したのは女子では私だけ。そういったプライドはしっかり持って演技するようにしていました」と語った。エンターテインメント性だけに偏らない、オリンピアンとしての誇りが、高難度の技の正確な実施を可能にし、演技に品格をもたらした。ラストの屈身ダブルは高さや空中姿勢にさらなる磨きがかかっているように見えた。