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杉原愛子23歳、復帰戦で優勝の“サプライズ”はなぜ起こった? 最新演技に見えた“女子体操オリンピアン”の誇り「パリ五輪選考の台風の目に…」
posted2023/06/26 17:11
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
JIJI PRESS
体操の女子日本代表としてオリンピック2大会に出場し、昨年6月に第一線を退いた杉原愛子(武庫川女大)が、6月の全日本種目別選手権で1年ぶりに競技会に出場し、ゆかでいきなり優勝を飾った。復帰そのものに驚いたファンは多かったが、それ以上にサプライズだったのは優勝という結果だ。
予選3位通過の杉原は、艶やかなウォーキングでスタート位置につくと、映画「007」のテーマに合わせて得意のひねり技やアクロバットの連続技を披露。アップテンポな曲へ変換したタイミングで両手を頭上で2度合わせると、会場は瞬く間に手拍子で盛り上がった。最後は屈身ダブルの着地をピタリと決め、笑顔で演技を締めくくった。
演技構成の難度を示すDスコアは5.2、出来映えを評価するEスコアは8.200、合計13.400点での優勝。昨年1位の山口幸空(米田功体操クラブ)は負傷で不在だったとはいえ、1年のブランクを経ての優勝は圧巻だ。演技のクオリティーという観点でも、杉原自身が昨年のこの大会で2位だった時のDスコア5.3、Eスコア8.166、合計13.466点と比べて、ほとんど差のないハイレベルな内容だった。
「引退ではなく一区切り」と語っていた
1年のブランクがありながらここまで高いレベルを維持できたのはなぜか。理由のひとつは、杉原が競技に対してある程度近いスタンスを持ち続けたことだ。
杉原が現役に区切りをつけると表明したのは昨年6月8日。自身のインスタで「身体的コンディションやモチベーションの維持が難しくなった」「引退ではなく一区切り」「競技者ではなく演技者として活動を継続していきたい。これからも体操界を盛り上げていきます」と書き、その約10日後の全日本種目別選手権を体操人生第1章のラストに定めた。
試合では黒いベルトが目を引く赤のレオタードをまとい、ゆかの最後の着地をピタリと決めて2位。21年10月に左膝を手術した影響で22年4月の全日本個人総合選手権、同5月のNHK杯を欠場していた経緯を見れば、表彰台に上がったことがすばらしく、有終の美と言うのにふさわしい結果だった。杉原自身も「すべて悔いなく出し切れた」と感涙していた。
ただ、その時点から強調していたのは、「引退ではなく一区切り」という表現だ。昨年7月にインタビューをした際、言葉の真意について尋ねると、杉原はこのように説明した。