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羽生善治新会長「忙しい方が…」二刀流でタイトル100期なるか? 元A級棋士が知る“七冠後の羽生”に米長邦雄55歳が感心した日とは
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/14 17:00
日本将棋連盟の会長に選任され、記者会見する羽生善治九段
しかし、羽生が七冠を獲得した1996年の頃から、総会で意見を述べるようになった。同年に将棋会館の建設問題が持ち上がると、「これからは将棋ファンを集めてイベントをする時代で、それにふさわしい会館を作ることは大事。自分なりに考えていきたい」と語った。
ただ1998年の総会では、羽生は「会館建設は難しい」と慎重な意見を述べた。会館建設委員会の監査役だった米長邦雄永世棋聖(当時55)が後日にその件で羽生に問うと、「私は考えが変わりました。会館建設にはリスクが大きいことが分かりました」と答えたという。
羽生は独自に集めた資料を調べ上げ、建設資金や返済計画、寄付金の状況などを勘案した結果、考えを変えたのだ。米長は、自分の考えをしっかり持って決断する羽生に感心した。
羽生は20代から将棋連盟の運営に関心を抱いていた
米長は連盟会長に就任した2005年以降、何かにつけて羽生に相談したという。その時々のテーマを提案すると、羽生は「会長の考えで良いと思います」「私の意見は違います」と、二択の見方を示した。前者の場合は「何があろうとも会長を全面的に支持します」との言葉を添えた。自分の考えをしっかり持っているからこそ、的確に判断できたといえる。
2018年の連盟総会では会館建設準備委員会が発足し、羽生は委員長に就いた。それから8回にわたる会合を経て、2019年に答申案を常務会に提出した。それを基にして、会館建設は具体化された。
その後、佐藤会長が会館建設を推進し、今年の総会で羽生新会長が受け継ぐ形になった。ただ実際に下地を作ったのは羽生だった。また、羽生にとって20年越しの事業となった。
以上の過去の経緯が示すように、羽生は20代の頃から将棋連盟の運営に関心を抱いていた。このたびの会長就任は、決して唐突なことではない。
連盟会長と棋士の「二刀流」での活躍を
羽生九段は通算100期のタイトル獲得を目前に、5年以上も足踏みしている。連盟会長に就き、さらに難しくなりそうだ。しかし、羽生が「忙しい方がメリハリをつけながら活動できると思います」と語ったように、盤上の戦いに必ずしもマイナスになるとは限らないと思う。
大先輩の大山康晴十五世名人が――羽生とほぼ同年齢の53歳で連盟会長に就任し、在任中にタイトルを獲得した例もある。
羽生には連盟会長と棋士の「二刀流」での活躍を期待したいものだ。
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