将棋PRESSBACK NUMBER
「羽生善治52歳vs藤井聡太20歳」Nスぺ番組担当Dは“羽生名人の記録係を務めた元奨励会員”だった「羽生さんのミステリアスさは今も昔も…」
posted2023/06/01 11:01
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by
NHK
やはり通算タイトル99期、永世七冠の実績は伊達ではなかった。
2022~2023年度にかけて、羽生善治九段が将棋界のトップオブトップで存在感を見せている。王将戦挑戦者決定リーグ戦を全勝で勝ち上がり、藤井聡太王将(20=竜王、王位、棋王、棋聖、叡王と六冠)との名局を繰り広げた。5月18日に行われた佐々木大地七段との王位戦挑戦者決定戦に敗れ、2度目となる「藤井ー羽生」のタイトル戦はお預けとなった。
とはいえ“非公認”ながら棋士の強さを測る指標となる「shogidata.info」のレーティングでは、5月26日時点で「1838」。藤井の「2067」がズバ抜けているとはいえ、永瀬拓矢王座(1887)、豊島将之九段(1885)、渡辺明名人(1850)、広瀬章人八段(1841)、佐々木大地七段(1825)、菅井竜也八段(1814)、斎藤慎太郎八段(1810)と20~30代の棋士に交じって、52歳の羽生がこれだけの数字を叩き出していることは、驚異の何物でもないだろう。
王将戦を終えたタイミングの4月15日、NHKで放映された『NHKスペシャル 羽生善治 52歳の格闘 ~藤井聡太との七番勝負~』が話題になった。羽生のロングインタビューを交えながら、当代きっての天才である藤井に対して、いかにして挑んだかを丁寧に描いた映像記録だった。
2021年度が14勝24敗――そもそもプロデビューした1985年以降、初の負け越しなのが凄まじいのだが――だったことを踏まえて、羽生が絶対王者となった藤井に挑む構図を見て“復活”の文字を思い浮かべる人は多かったのかもしれない。
今の子供たちが藤井将棋に憧れるように、羽生さんに
しかし羽生を、かつては棋士の卵、現在はTVディレクターとして長年追っていた人物にとっては、少し違う見立てのようだ。
「ちょうど将棋を覚えたのは9歳の時でした。当時、羽生さんが七冠を獲得するなど将棋界を駆け上がっている……まさに今の藤井聡太さんのような状況で、それを見て〈こんなにかっこいい人がいるんだ〉と思って、将棋を覚えたのがきっかけですね」
このように話し始めたのは、この番組を担当した田嶋尉氏である。藤井将棋を見て将棋を始めたという少年少女が増えたと聞くが――それと同じように、1990年代の羽生将棋に感銘を受けて将棋を始めた田嶋は、2010年まで奨励会に在籍していた。
「奨励会時代は、羽生さんの記録係を数多くやっていたんです。それこそ2000年代、森内(俊之)さんと名人戦を戦われていた頃などです」