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「藤井聡太さんも羽生善治さんも大天才」「純粋に将棋を楽しんでいる」“2人の共通点と違い”をNHK担当Dが語る「AIについては…」
posted2023/06/01 11:03
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by
NHK
「藤井さんと羽生さんは、2人とも凄い大天才だと感じています」
4月15日に放送された『NHKスペシャル 羽生善治 52歳の格闘 ~藤井聡太との七番勝負~』はタイトル通算99期の羽生善治九段と、最年少記録を次々と更新する藤井聡太竜王がタイトル戦で初めて相まみえた王将戦の映像記録として――そして熱戦続きの対局によって――貴重な価値を持つものになった。番組では本人にインタビューをするなど、“主演”にあたる立ち位置にいたのは羽生だったが、随所に正確無比な藤井将棋の凄みがにじみ出るものとなった。
ハッキリとしない局面で、2人はどんな選択をするのか
番組制作を担当したのは、奨励会の経験を持つ田嶋尉ディレクターである。
「藤井さんと羽生さん、ともに大天才だと思っているんですが……」
それぞれの将棋について聞いてみると、2人の共通点と違いが浮かび上がってくる。それは“攻めか受けかハッキリとしない”局面についてだ。サッカーでたとえれば、ボール保持をし続ける側と守備陣形を固める側といったように――攻守が明確な展開になると方針を立てやすいとはよく聞くところだ。しかし81マスに並ぶ駒たちは、往々にして白か黒かで判断しきれない状況を作り出す。田嶋は「本人の思考を知っているわけではなく、個人的な感じ方なのですが……」と前置きしつつ、こう話す。
「その迷いやすい局面において、羽生さんは割と攻めていく手を選ぶ。『とにかく行けるなら行ってみよう』と前に出てくるんです。藤井さんは意外かもしれませんが――守る傾向にあると感じます。視点を変えて表現すれば、藤井さんが攻めているときは、基本的に絶対に攻めきれたり、勝ちを読み切っているとき。もしくは絶望的な状況から一発逆転を狙うなど、“何らかの確信”があるんです。
一方でどちらに行くか分からない状況では、かなり我慢する印象です。そこでギリギリまで耐えて、最後に爆発して完勝に持ち込む。相手からしてみると“いつ切られているのか分からない”感覚に陥るのは、そういった側面もあるのかもしれない、と感じます」
藤井将棋の“なかなかない負けパターン”とは
2人の違いが現れ、そして世間に驚きを与えたのは、雪の降る東京・立川で行われた王将戦第4局だった。