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「羽生善治52歳vs藤井聡太20歳」Nスぺ番組担当Dは“羽生名人の記録係を務めた元奨励会員”だった「羽生さんのミステリアスさは今も昔も…」 

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茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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posted2023/06/01 11:01

「羽生善治52歳vs藤井聡太20歳」Nスぺ番組担当Dは“羽生名人の記録係を務めた元奨励会員”だった「羽生さんのミステリアスさは今も昔も…」<Number Web> photograph by NHK

王将戦で名勝負を繰り広げた羽生善治九段と藤井聡太王将

 とはいえ、田嶋は将棋の専門性を強みとしていて、もともとドキュメンタリー番組の経験がなかった人物である。「今までは将棋ファンにアプローチする番組作りをしてきましたが、将棋について何も知らない一般の方にも興味を持ってもらうために色々と学ぶことがありました」と語るように、手探りの期間が続いた。その中でまず2018年に放送されたのが「羽生善治とAI世代 ~絶対王者に挑んだ若手棋士たち~」、その後2021年に放映されたのが『羽生善治~天才棋士 50歳の苦闘~』という番組だった。

レジェンドが藤井から「学べるチャンス」と考えていた

 2人が羽生を追い始めてからの数年間で、将棋界における構図と序列は変容していた。羽生は2017年に前人未到の「永世七冠」を達成したものの、20~30代棋士の台頭により、2018年には27年ぶりとなる無冠となった。番組でも取り上げられた竜王戦では、挑戦者として豊島将之竜王(当時)に挑む立場だった。

 この番組では、コロナ禍の中で行われた羽生と木村一基九段のオンライン研究会――今年放映された『羽生善治 52歳の格闘』でもその一部が流れた――の様子を放映するなど、トップ棋士として君臨し続けた羽生がいかに最先端の将棋と向き合うかを描いていた。その中で、小堺の心に刻まれた羽生の言葉があった。

「羽生さんが『これからは藤井さんに学ばなければいけない』と言っていたのが、物凄く耳に残っているんです。将棋界の歴史に残る大棋士、レジェンドが『学べるチャンス』と考えていたんです」

 もしこの2人がタイトル戦で相まみえる機会が来るのならば……。

 小堺はそんな思いを心に秘めていた。そんな中で2022年秋から始まった王将戦挑戦者決定リーグ戦、羽生がタイトル経験者を次々と撃破する快進撃で7戦全勝。藤井との初タイトル戦が実現する。そしてほどなく、『NHKスペシャル』として取り上げることが決まった。

“この王将戦は名勝負になる”予感がした瞬間

 将棋界が誇る2大スターの激突。前夜祭から新聞だけでなく、地元テレビ局やワイドショーを含めたカメラクルーが数多く並ぶなど盛り上がりを見せていた。当初は“藤井王将が一気に勝つのでは”との見立てもあった。番組作りのシミュレーションとして“第4、5局までで決着”したケースも念頭に置く必要があったという。実際、番組の冒頭でも〈下馬評では藤井の圧勝〉という表現を使っていた。

 しかしそんな杞憂を、羽生の指し回しが吹き飛ばした。小堺は静岡・掛川で開催された開幕局をこう回想する。

【次ページ】 羽生さんはずっとミステリアスなんですよ

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