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「羽生善治52歳vs藤井聡太20歳」Nスぺ番組担当Dは“羽生名人の記録係を務めた元奨励会員”だった「羽生さんのミステリアスさは今も昔も…」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byNHK
posted2023/06/01 11:01
王将戦で名勝負を繰り広げた羽生善治九段と藤井聡太王将
「負けこそしましたが、第1局から“羽生さん、調子がとても良さそうだな”と感じるほどの意欲的な指し方をしていたんです。すると第2局では競り合いを制した。この辺りから“この王将戦は名勝負になる”という予感があって、番組作りも王将戦の対局にフォーカスしていく構成に変えたんです」
各局の戦型と展開を分かりやすく、丁寧に説明していくとともに、その時に羽生が何を考えていたのか。そこをインタビューで焦点を当てていくスタイルで番組は進んでいった。そして田嶋と小堺は、インタビューする立場として羽生と向き合った。
羽生さんはずっとミステリアスなんですよ
印象深いのは、田嶋の言葉である。かつては記録係として、現在は番組担当ディレクターとして羽生と間近に、そして長時間にわたって接する存在として、どのように人間性を捉えていたのだろうか。
「やっぱり……羽生さんはずっとミステリアスなんですよ。いい意味で“何を考えているのか、こちらが読めない”んです。たとえばインタビューをすると、意図した答えが返ってこないことがある。小堺さんが違うアプローチで聞くと、また同じ答えが返ってくる場合は、“その質問には答えないでおきます”ということなのかな、と(笑)。
記録係として対局を見ていた時も、羽生さんは物凄く集中して考えているんです。でも、ふと『あっ、ああ……そうか』『んーっ……』と何かに気づいたのか、声を出すことがあるんです。その辺りのリズムはやはり、他の棋士の方々とは違うのかも、とずっと思っています」
羽生は盤上を離れると“ウサギ好き”な一面だったり、今回の王将戦でも「勝者の記念撮影」でのサービスショットに気兼ねなく応じるなど、親しみやすいキャラクターも数多くのファンを惹きつける要素だ。ただそれ以上に、将棋に向かう際の超然とした姿こそ、羽生が放つ強烈な引力なのである。
「例えば、5年前に聞いたインタビューでも、そういったことがあったんです」
田嶋は記憶を再び辿り始めた。<#2につづく>
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