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欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
「学校生活もろくにできないやつが、サッカーうまくなるわけない」岡崎慎司らを輩出、“滝川第二の名伯楽”黒田和生のブレない「人間性=サッカー」論
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byAFLO
posted2023/06/04 11:04
世界で活躍する指導者にも相通じる滝川第二元監督・黒田和生の教育哲学を、本人と教え子の証言で読み解く。
教員としても監督としても、人間的なアプローチは一緒だ
黒田本人から「教員としても監督としても、人間的なアプローチは一緒だ」と話を伺ったことがある。その言葉の通り、黒田はやるべきことをいつでも丁寧に真摯にやっていた。滝川第二高校ではサッカー部と野球部が強化クラブで、その顧問はクラスを持たなくてもいいことになっていたそうだ。それでも黒田はサッカー部の顧問だけではなく、体育主任とクラス担任を進んで引き受けている。
育成における取り組みというのは短期的な結果には結び付きにくかったり、その意義を理解されづらかったりする。特に人間性に関する取り組みというのは長期戦だ。年頃の選手たちは血気盛んで、鼻息が荒いことも多い。遠い将来、自分のプラスになるかもしれないことを明確にイメージするのは簡単なことではないし、それよりも目に見える変化や成果を求めてしまいがちだ。『自分達はこれだけのことをやったんだ』という実感こそが正義だったりする。でも黒田はそうした選手相手に、辛抱強く実直に、何が正しくて、何が大切なのか、なぜそうなのかを伝え続けた。何度も、何度も。折れることなく。
非常に低い退部率
岡崎もその重要性を今深く実感しているという。
岡崎「先生は『結果よりも内容が大事だ』っていつも言うんです。でも高校時代はそうした先生の話全部を理解してなかったですね。だって勝ちたいじゃないですか、やっぱり。だからそれこそ腹が立ったり、意見を言ったり、反抗しようとする選手だっていたとは思うんです。でも卒業して、歳を重ねていくごとに、やっぱり最終的に黒田先生の偉大さに気づく。そのときには気づけないことも、のちのち『これが身に沁みついていたんだな』っていうのを感じられるようになっていたんです」
「勝てればそれでいい」という考え方、やり方だけでは、その先に何も残らない。サッカーを続けたいと思えるだけの環境が、そして人として確かに自立し、成熟していけるだけの下地がなければならない。