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【F1復帰】「ぜひまたホンダと…」ラブコール実ったアストンマーティン・ウィットマーシュCEOが10年も“想い続けた”理由とは
posted2023/05/26 11:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
HONDA
5月24日、ホンダが「2026年からF1世界選手権に参戦し、アストンマーティンと新レギュレーションに基づくパワーユニット(PU)を供給するワークス契約を結ぶことで合意した」と発表した。
その発表会場となった東京・青山のホンダの本社を、特別な思いで訪れていたのが、アストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズでグループ・チーフ・エグゼクティブ・オフィサーを務めるマーティン・ウィットマーシュだ。
ウィットマーシュは10年前の2013年5月にもマクラーレンのチーム代表としてここを訪れ、2015年からF1に復帰するホンダとPU供給の独占契約を結んだ人物だ。
その決定に驚いた者は少なくなかった。なぜなら、当時マクラーレンが搭載していたエンジンはメルセデス製で、彼らはメルセデスとともに何度もタイトルを手にしていたからだ。
だが、ウィットマーシュはホンダを選んだ。目先の成功ではなく、長期的な戦略に立って、大きな成功を狙っていたのだ。
ホンダとともに戦えなかった悔恨
マクラーレンが1995年以来メルセデス製のエンジンを搭載して成功を収めてきた一因に、ワークス体制でエンジン供給を受けたことが挙げられる。しかし、その関係性は2010年に変化を迎える。同年からメルセデスが自チームを立ち上げ、マクラーレンはカスタマー仕様のエンジンで戦うことになったのだ。
モータースポーツで成功を収めるには、車体に合わせて設計されたエンジンが不可欠だ。カスタマー仕様のエンジンを搭載するようになったマクラーレンは徐々に戦闘力が低下し、2013年は1980年以来33年ぶりに表彰台にも上がれない厳しいシーズンを過ごした。さらにF1は2014年からエンジンに代わって、PUと呼ばれるハイブリッドの動力が導入される。
低迷から脱出するだけでなく、再びタイトル獲得を目指すためには、カスタマーではなく、ワークス体制でPUの供給を受ける必要があった。そのためにウィットマーシュは、多少の痛みを受け入れる覚悟をしていた。
しかし2014年、マクラーレンのチーム代表に創始者であるロン・デニスが復帰。ウィットマーシュはマクラーレン・ホンダとしてF1に参戦する前にチームを去ることとなった。