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「彼らは素晴らしい技術集団」ホンダを栄光に導いた功労者、引退表明のフランツ・トストが信じた日本企業の底力
posted2023/05/12 11:01
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images / Red Bull Content Pool
4月26日、ひとりの名将が今シーズン限りでF1から退くことを発表した。アルファタウリでチーム代表を務めるフランツ・トストだ。
アルファタウリの前身であるトロロッソがF1に参戦した2006年から、代表としてチームを指揮してきたトストの引退を惜しむ声は少なくない。そして、ホンダでF1に携わった人々の思いは、より一層強いはずだ。
ホンダはレッドブルとともに数々の成功を収め、今シーズンもここまで5戦5勝と破竹の勢いを見せている。しかし、その栄光はトストの存在抜きには実現していなかった。
話は2017年に遡る。この年のホンダは厳しい戦いを強いられていた。当時ホンダがPU(パワーユニット)を供給していたのはマクラーレン。F1に復帰して3年目になってもトラブルが相次ぐ状況に、マクラーレンの首脳陣はホンダとの契約解消を決断する。
当時、ホンダがPUを供給していたのはマクラーレンだけだったから、契約解消はF1からの撤退を意味していた。実際、ホンダの経営陣の中にも「マクラーレンとの契約を解消して、そのままF1から撤退したほうがいい」と主張する声もあったほどだった。
ホンダへの揺るぎない信頼
そのときホンダに手を差し伸べたのが、トストだった。実はそれ以前にも、トストはホンダと契約しようと何度かラブコールを送っていた。しかし、マクラーレンが独占契約を盾にトロロッソの要求を突っぱねていた。それでも、トストはあきらめなかった。そして、2017年の秋、チャンスが巡ってくる。
ホンダとの契約を解消したマクラーレンは、トロロッソが使用していたルノーのパワーユニットを2018年から搭載。代わりにトロロッソがホンダと契約することになった。
なぜ、トストはマクラーレンから三行半を突きつけられたホンダと契約したのか。
そこにはトストの経歴が強く影響していた。
レーシングドライバーとして思うような結果を残せなかったトストは、90年代に第二のレース人生をスタートさせていた。1993年にはミハエル・シューマッハーのマネジメントを務めていたウィリー・ウェバーの会社に入り、ミハエルの弟のラルフ・シューマッハーのマネージャーとして日本の『フォーミュラ・ニッポン』に参戦するために1年間、日本で生活していた経験を持つ。