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3度目アジア王者・浦和レッズに「神風が吹いた」逆風の前半→逆襲の後半、埼スタ全体がゴール裏状態の歌声…選手とサポで作り出した“最高の追い風”
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAsian Football Confederation (AFC)
posted2023/05/07 17:04
3度目のアジア王者!浦和レッズは間違いなく、ACLという大会の価値を高めたクラブである
2019年決勝で浦和守備陣を蹂躙したサイドアタッカーは、プレーメーカーへと変貌を遂げ、再び浦和の前に立ちはだかった。このペルー代表MFがポジションを自在に変えながら、アル・ヒラルの攻撃を組み立てていく。伊藤がピッチでの対応を語る。
「カリージョ選手のところがフリーになっていて、ミドルシュートを打たれたり、クロスやスルーパスを許してしまった。あそこにもう少し行きたかったんですけど、行って自分がいたスペースを空けるのが怖かったので、バランスを取りながらやりました」
ハーフタイムには「後半は追い風だから行ける」
アル・ヒラルの圧力に加えて浦和を苦しめたのが、埼スタの南から北に吹き込んだ強風だった。前半、風下に回った浦和はクリアボールが風で戻される場面が目立ち、相手の攻撃をなかなか押し返せない。
「強風の影響もあって押し込まれ、精神的にも苦しく、神経質になって普段なら繋げるところでもリスク回避のために大きく蹴ることもあった」と小泉が説明する。
だが、24分にその小泉を起点にカウンターを繰り出し、関根貴大がシュートを放ったシーンを境に、浦和も反撃に出る。
30分には酒井宏樹のクロスを興梠慎三が右足アウトサイドで狙ったが、クロスバーを直撃。千載一遇のチャンスを逃したものの、風下での前半を無失点で切り抜けたのが大きかった。
「風の影響もあって前半は難しい試合になると思っていたので、『前半はとにかくゼロで終えよう』ってみんなで話していました。後半は相手の運動量も落ちると思っていたので、必ずチャンスは来るだろうと」
岩尾憲がそう振り返れば、大久保智明もこう明かす。
「前半は向かい風で押し込まれたので、ハーフタイムのロッカールームで『よく耐えた』という話をしていた。『後半は追い風だからもっといける』『もっと支配できるぞ』とも」
決勝点で吹いた「神風」と、埼スタ全体の“ゴール裏化”
勢いをもってロッカールームを飛び出したホームチームは、その直後、待望の瞬間を迎えることになる。
49分、岩尾が蹴ったFKが風に乗り、絶妙な軌道でマリウス・ホイブラーテンに届く。ノルウェー人センターバックのヘディングによる折り返しも、風の影響を受けてゴールに向かっていく。たまらず掻き出そうとしたカリージョがクリアできず、オウンゴールを犯してしまうのだ。
神風が吹いた――。
そう表現したのは、岩尾である。