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5年前、藤井聡太の台頭に渡辺明は「上の世代が粘らないと面白くならない」…名人戦取材記者が“あの日の言葉”を思い出した浮月楼の夜

posted2023/05/02 17:03

 
5年前、藤井聡太の台頭に渡辺明は「上の世代が粘らないと面白くならない」…名人戦取材記者が“あの日の言葉”を思い出した浮月楼の夜<Number Web> photograph by Number Web

藤井聡太竜王が2連勝を飾った第81期名人戦七番勝負。「上の世代が粘らないと面白くならない」と語っていた渡辺明名人の逆襲はあるのか

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いしかわごうGo Ishikawa

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4月27・28日に行われた将棋の第81期名人戦七番勝負の第2局は、挑戦者の藤井聡太竜王(六冠)が渡辺明名人に87手で勝利し、開幕から2連勝を飾った。同対局を現地取材した記者が、Number Webに観戦記を寄せた。(全2回の2回目/前編へ)

 4月28日、静岡県静岡市の「浮月楼」。第81期名人戦七番勝負の第2局は、2日目も均衡を保ったまま午前の時間が過ぎていった。

 だが昼食休憩の直前、藤井聡太竜王が端攻めを仕掛けていき、その攻防手で渡辺明名人の有利に傾いたような局面が生まれている。

 50手目の△3四金と力強く出た場面が、それだ。

 サッカーに例えるならば、守りの要であるセンターバックが最終ラインを大きく飛び出してブロックをしにいく、強気の一手に見えた。

 ここで藤井竜王は、前に出て成り込むはずの角をたまらず▲2六角と後退させている。次の瞬間、今度は渡辺名人の桂馬が中盤に跳ねた。端攻めを撃退するカウンターを繰り出す格好になり、AIによる評価値も渡辺名人にやや形勢が傾いてきていた。

 プロ同士の将棋では、後手番がわずかに不利だと言われている。

 今回は藤井竜王が先手で、渡辺名人が後手だ。とりわけ先手で圧倒的な勝率を誇る藤井竜王に、対戦相手はノーチャンスのまま敗れることも珍しくない。しかし、本局は2日目の昼の時点でほぼ互角。ABEMAの中継で解説を担当していた中村太地八段は、難解な盤面に頭を悩ませながら「先手の藤井竜王を相手にここまで拮抗した戦いに持ち込んでいる時点で、渡辺名人の作戦は大成功ではないか」と口にした。

「僕らは先人たちの技術を見て、学んできましたから」

 今回の取材中に、ふと思い出した記憶がある。

 今から5年前の2018年。とある企画で、渡辺名人(当時は棋王)にインタビューをする機会に恵まれたときのことだ。

 当時34歳の渡辺棋王のタイトル獲得数は20期を数え、歴代棋士の中で谷川浩司十七世名人の27期に次ぐ5位だった(現在の渡辺名人は通算31期で歴代4位)。

 すでに将棋史に名を残す棋士だった渡辺棋王は、「将棋は先人たちの技術を学び、積み重ねていく世界」と述べた。その言葉が妙に印象に残っていたのである。

「将棋の世界は技術の積み重ねです。戦後の大棋士、大山康晴先生、中原誠先生、米長邦雄先生……上の人たちの技術を見て、下の世代が抜いていった。その積み重ねで谷川先生や羽生(善治)さんが出てきた。僕らはそういう先人たちの技術を見て、学んできましたから」

【次ページ】 一時は「名人有利」に傾きかけるも…勝負の分かれ目は?

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