マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「あのとき、なぜ大谷翔平は最初に中村悠平と抱き合ったのか?」WBCであまり語られてこなかった“ヤクルト中村捕手”のキャッチングをホメたい
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/26 17:02
WBC決勝9回、リリーフのマウンドに立った大谷翔平と話す中村悠平。即席バッテリーでも快投を引き出した
何も着けていないから、今のように、ショートバウンドを体で止めにいったりしていては、鎖骨、肋骨、顔面、みぞおち……当たれば泣くほど痛い「急所」がいくつも投手のほうを向いているのだから、なんとかミットにおさめようとしたものだ。
相手は「硬球」である。当たれば、同じ体積の「石」と同じ威力だから、たまらない。一種の防御本能でもあったのだろう……知らず知らずのうちに、ショートバウンドを吸収するように捕球する術を身につけていた。
変化球のショートバウンドは、体の左右に来ると、いくらかさばきやすいのだが、正面が厄介なのだ。中村捕手は、体の真っ正面のショートバウンドも、両膝をついて止めにいきながら、股間に置いたミットでしっかり捕球してしまう。しかも、なんてことない所作でやりこなしてしまうから驚いた。
3通りもある「ロウキフォーク」すら簡単に…
高橋宏斗(中日)のスプリットとタテのスライダーがショートバウンドになるところをミットで難なく捕球すると、戸郷翔征(巨人)のクセ球フォークも、左腕エース・今永昇太(DeNA)のスライダーやチェンジアップも、伊藤大海(日本ハム)の横に流れるスライダーも、ダルビッシュ有(パドレス)の代わりばな初球の149キロも、そして、あの山本由伸(オリックス)の140キロを超える高速フォークも、一流の快腕たちの切り札がショートバウンドになるところを、いとも簡単そうに、ミットにおさめてみせた。
3メートル以上の高所から投げ下ろしてくる佐々木朗希(ロッテ)のフォーク。スローの映像で見たら、リリースの瞬間の手首の角度によって、3通りもあった。手首をちょっと寝かせて投げると、沈むスライダーのように落ち、手首を立てればタテの落下。そして手のひらをちょっと三塁側に向けるようにして投げ下ろせば、沈むシュートのようなフォーク。その3通りの「ロウキフォーク」のショートバウンドすら、中村悠平のミットに吸い込まれていく。
高校球児にもぜひ教えたい「中村流」
ショートバウンドの捕球が上手いなぁ……と見とれたことがあるのは、巨人・阿部慎之助の現役後半もそうだった。エース・菅野智之のスライダーやフォークのショートバウンドをスイスイ吸収していたが、中村捕手の「スーパーキャッチ」も負けず劣らずの素晴らしい技術に見えた。