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将棋PRESSBACK NUMBER
藤井聡太竜王が渡辺明名人に勝っても「自信のない展開」と話してた…「難しい将棋」ってどんな感覚?〈高見泰地七段に聞く〉
posted2023/04/23 06:00
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by
JIJI PRESS
藤井聡太竜王(20/王位・棋王・叡王・王将・棋聖と六冠)の名人挑戦、防衛ロードが新年度に入って加速している。4月5、6日に行われた名人戦第1局では渡辺明名人に110手で、11日に行われた叡王戦第1局では菅井竜也八段に147手でそれぞれ先勝し、幸先の良いスタートを切った。
タイトル戦での番勝負いまだ負けなしの藤井に対して、渡辺は前夜祭で「このような大変注目を集める番勝負に出場できるということは、棋士として大きな幸せだと思います」と語り、そして振り飛車党(飛車の筋を変えないで戦う「居飛車」に対して、序盤に飛車筋を大きく展開する戦法)のトップランナーである菅井も前日会見で「最高の振り飛車対最高の居飛車の戦いだと思っているので頑張りたい」と語っていた。彼らトップ棋士はどう戦おうとし、藤井竜王はどう1勝目までの道のりを歩んだのか。
叡王獲得経験のある高見泰地七段に、名人戦第1局の展開を中心に棋士としての視点・心情を聞いてみた。(全2回の1回目/#2も)
「1日目からとても難しい将棋だった」とは?
「名人戦は以前に椿山荘で副立会人をやったことがあって、とてもいい思い出ですね。今年はお邪魔できなかったんですが、都心の椿山荘というロケーションもあって、東京の棋士が集まるイメージもあります。現地にファンの方々もかなりいたそうですね。対局場として本当に素晴らしい場所だと思います」
こう切り出した高見七段。名人戦第1局について「序盤から駆け引きが見られて、1日目からとても難しい将棋」だったという。その序盤戦の世界を凡人である立場として少しだけ覗かせてもらうと……。
高見 1局目は振り駒(※歩を5枚振って、両者の先手・後手を決める)で先手となった渡辺名人が9手目に「6六歩」と角道を止めて、拒否する形からスタートしました。お互いに序盤は戦型について態度を決めない、保留するような展開となりました。作戦について〈これで!〉と決めて戦いに行くことは結構あるのですが、本局のように〈形を決めない〉ということも――レベルが高くなればなるほど有力なんです。相手の形によって、例えば金や銀の位置を変えようという感覚です。
名人戦第1局という特別な空気感の中に…
――渡辺名人と藤井竜王の対局というと、角換わり(※序盤で角行を交換し合う戦型。AIソフトによる研究が最先端で進んでいるとされる)でスピードが速く進んでいく印象が強かったので、少し驚きました。