- #1
- #2
将棋PRESSBACK NUMBER
藤井聡太20歳は「簡単に勝っているようだけど、本当は普通じゃない」高見泰地29歳も脱帽の“勝ち筋と人間性”「普段は自然体で…」
posted2023/04/23 06:01
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by
JIJI PRESS
4月5、6日に開催された第81期名人戦第1局で、藤井聡太竜王(20/王位・棋王・叡王・王将・棋聖と六冠)は渡辺明名人(38)に先勝した。棋士はこの一局をどのように解釈し、対局を見つめていたのか。高見泰地七段(29)に2人の心境を推察してもらいながら解説してもらった。(全2回の2回目/#1から読む)
長い対局時間は“嬉しい”と思って指しているのでは
――前編では対局全体について聞きましたが、藤井竜王を中心に、もう少し将棋という競技の内容について聞いてみたいと思います。名人戦第1局は藤井竜王にとって、初めての「9時間」という持ち時間の中での闘いでした。対局時間が延びることというのは棋士にとってどういう感覚があるのでしょうか。
高見 未知の時間というか……実戦として経験したことがないのは事実でした。ただそこでも藤井竜王の非凡さが垣間見えた印象です。将棋と持ち時間という観点から話しますと、まず奨励会(※棋士を目指すための養成組織)時代は1時間30分です。そこから棋士になると、徐々に3、4、5、6時間と長時間の対局を経験していきます。すでに藤井竜王は持ち時間8時間の竜王戦、王位戦、王将戦を経験されていますが、9時間は2日制でさらに夕食休憩があります。総力戦という感覚が藤井竜王ご自身の中にはあるのでしょうが……むしろ藤井竜王は〈長時間であればあるほど強い〉というのが最近改めてよくわかってきています。なので、見ている限りの感覚ですが――もはや嬉しいと思って指しているんじゃないでしょうか(笑)。将棋、そして考えることが本当に好きという印象ですからね。
――終盤戦に入っても藤井竜王はしっかりと時間を使いながら、勝利への道筋を立てていた印象でした。
高見 藤井竜王は、昨年度に一般棋戦グランドスラムを達成したことがその証拠であるように――短い時間でパッパッと指していっても非常にクオリティの高い、正解に限りなく近い手を繰り出し続けられます。そこに加えて、考える時間が長くなるほど精度はさらに増します。そういう意味では藤井竜王の将棋の質として一番いいパフォーマンスに近づくのが長い持ち時間で、しかも長考しても集中力が切れないのは現在の強みなのかなと感じます。
評価値が表示されない世界観での“せめぎ合い”とは
――高見さんの棋士としての感覚を聞きたいのですが、長考することと集中力のバランスは保てるものなのでしょうか。