熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
「大谷翔平と相手の談笑に…」「トラウト三振後に米国人が“ナイスゲーム”と」WBC現地観戦→ブラジルで思うこと「FIFAはアグラをかいていては…」
posted2023/04/16 17:01
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph by
Naoya Sanuki
WBC準決勝メキシコ戦は、窮地に追い詰められた末の劇的なサヨナラ勝ち。ローンデポ・パーク(マイアミ)のフィールドをまるで高校球児のように飛び跳ねる侍ジャパンの選手たちを半ば信じがたい気持ちで眺めていると、隣の30歳くらいのメキシコ人ファンが悔しさに顔を歪めながらも、「フェリシタシオーネス」(おめでとう)と言って握手を求めてきた。
この試合には日本からもかなりのファンが駆けつけてきており、メキシコ人のファンと写真を撮ったりハグをしたりして交歓する光景があちこちで見られた。日本にとっては会心の逆転勝利だが、メキシコにとっては悲劇としか言いようのない敗戦。にもかかわらず、メキシコ人たちは心優しく、潔かった。
決勝のアメリカ戦は、息詰まるような投手戦。大谷翔平対マイク・トラウトというエンゼルスの両雄の対決を経て、日本が14年ぶり3度目の優勝を成し遂げた。隣の席の中年のアメリカ人男性はしばらく頭を抱えて席にうずくまっていたが、やがて立ち上がると、僕に向かって「ナイスゲーム。コングラチュレーションズ」と言いながらグータッチを求めてきた。
栗山監督の「野球、すげえな」に同感した
僕は、長年、ブラジル・サンパウロに住み、ブラジルを含む南米各地で多くの試合を見てきたが、クラブの試合でも代表戦でも、対戦相手のファンとこのような友好的な交流をしたことは一度もない。それだけに、何とも清々しい気持ちになった。そして、もし逆の立場であれば自分が同じことができるかどうか、と考えた。フットボールの試合ではありえない、でもベースボールの試合であれば――という思いが頭をよぎった。
フィールドでは、日本選手が三塁側のライン上に並び、まずは観客に、続いてメキシコ選手に向かってお辞儀をし、帽子を振って挨拶をしていた。この光景を見ながら、フットボール(とりわけ南米の)とベースボール文化の違いをつくづく感じた。
メキシコ戦後、侍ジャパンの栗山英樹監督は「野球ってすげえなって。見てる人も野球ってすげえと思ったと思う」と語った。僕は、試合展開と試合後の両国ファンの振る舞いの両方に「すげえな」と感じた。そして、やはり僕が愛するフットボールとの文化の違いに眩暈がしそうになった。
大谷、ダルと対戦相手の交友に感じたこととは
帰属意識が高まりやすいクラブ・代表チームでの日常の戦いか、祝祭感のある国際大会かという前提はある上で――フットボールとWBC観戦で感じたベースボールの文化的な違いには、以下のような点が挙げられるだろう。