熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
「大谷翔平と相手の談笑に…」「トラウト三振後に米国人が“ナイスゲーム”と」WBC現地観戦→ブラジルで思うこと「FIFAはアグラをかいていては…」
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/04/16 17:01
大谷翔平は試合前、メキシコのスタッフと笑顔で健闘を誓いあっていた
1)対戦する選手どうしの関係
南米や欧州のフットボール強豪国では、よほど力の差がある場合は別として、敵対意識が非常に強い。互いに罵ったり挑発をするのは日常茶飯事。試合中に少し激しいタックルや接触プレーがあると、両チームの選手が集まって小競り合いになることが珍しくない。
一方、WBCで見たベースボールでは対戦相手イコール敵ではなかった。塁上のランナーと守備側の選手が談笑するのは、大谷を筆頭にかなり頻繁に見られた光景だ(試合前も大谷、ダルビッシュ有らが相手選手と交友をしていた)。MLBでは投手が危険なボール(ビーンボール)を投げると双方の選手が入り乱れて乱闘をしたり、報復としてデッドボールを投げることもあるが、頻繁に起きることではない。
2)選手と審判の関係
フットボールでは、自分たちに不利な判定が出ると、それが微妙な判定であった場合はもちろん、仮にそれが正しい判定とわかっている場合でも審判に強く抗議をするのが通例だ。審判を欺こうとするシミュレーションやダイビングも――イングランドのようにアンフェアな行為に対して厳しい国もあるが――南米では当たり前のように行なわれる。選手が審判を欺いた場合、ファンの多くは「うまくやった」、「演技がうまかった」と称え、「騙された審判が間抜け」と考える。
これに対して、ベースボールでは審判に高い権威がある。常に毅然としており、仮に誤審であろうと、監督や選手からの抗議を頑としてはねつける。
ストライク、ボールの判定は打者の体の大きさや構えにもよるので曖昧な部分が少なくないが、主審に抗議をすることは一切許されていない。現在MLBでピッチクロックなど試合短縮のための新ルールが物議を醸しているが――もしフットボール選手のように、ことあるごとにプレーに抗議をするとしたら、試合時間がとてつもなく長くなるに違いない。
WBCでは“隣り合って座ってもいい”環境だった
3)ファンと対戦相手の選手の関係
南米のフットボールでは、ファンは対戦相手の選手を口汚く罵るのが普通。しかも、そのような行為が、対戦相手に圧力をかけてひいきチームを有利に導くために必要な所作と認識されている。また、欧州の多くの国と南米の一部の国では、ファンが対戦相手の選手に対して人種差別的な野次を飛ばすことがしばしばある。
日本プロ野球では球団によって、グラウンド内外での誹謗中傷や野次について止めてほしいとの注意喚起がされているようだが――上記したような醜い行為は、WBCの最後の5試合を観戦した限りでは一度もなかった。
4)対戦相手のファンとの関係
南米や欧州のフットボールでは、スタジアム内外で双方のファンが衝突して死傷者を出したり、市民に迷惑をかけることがしばしばある。南米では、双方のチームのファンが交ざらないように座席のエリアを分けるのが当たり前。混乱を避けるため、ブラジルではホームチームのファンしか入場させないスタジアムが増えている。
一方、WBCではマイアミで体験したように談笑したり、互いのチームの健闘を称え合っていた。MLBの試合でも、双方のチームのファンが入り混じっている。