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「反省することばかりなんです」栗山英樹監督は“無私の人”だった…記者が明かす知られざる素顔「選手たちに余計な苦労を一切かけたくない」
posted2023/04/13 11:04
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph by
JIJI PRESS
WBCで日本を優勝へ導いた栗山英樹監督に、何度か取材をさせてもらったことがある。初めての取材は2016年で、当時は北海道日本ハムファイターズの監督を務めていた。シーズン開幕前に集中的に時間を作ってもらうことが多く、沖縄でのキャンプの合間やオープン戦後の都内のホテルなど、忙しい合間を縫って話を聞かせてもらった。
すっかり時の人となったいまだからこそ、当時感じた思いがくっきりと輪郭を帯びていく。
「選手たちに余計な苦労を一切かけたくない」
「ふと振り返ると、すごく反省をしているんです」
そんなふうに切り出したのは、2020年2月だった。新型コロナウイルス感染症がじわじわと拡大していたタイミングで、ファイターズが本拠地を置く北海道は感染者が多く報告されていた。栗山監督は「コロナが心配でしょうから、距離を取って話しましょう」と、長いテーブルの端に私たち取材陣を誘い、自分はその反対側に座った。
「僕は選手たちに、余計な苦労を一切かけたくないんですね。変なプレッシャーを感じずに、自分の能力を発揮できる環境を作ってあげたいと思ってやってきました。同時に、人としてみんなに愛されるように、応援してもらえるような人になるために、躾みたいなものはちゃんとしなきゃいけないと思うんです。そのためにはまず、自分が応援してもらえるような人間じゃないといけないけれど、そうなっているかと自問自答すると、反省することばかりなんです」
コロナ禍の入り口では、「ステイホーム」が叫ばれた。数冊を同時に読み進める多読家の栗山監督は、いつも以上に本と向き合うようになった。そして、日々の行動に思いを馳せるのだった。
「名言と呼ばれるものにたくさん触れてきましたけど、それを知ってもそのとおりに実行するのは、なんて難しいんだろうと感じます。たとえば、後藤新平さんが『人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そしてむくいを求めぬよう』と言っています。『自治三訣』と言われるものですが、そういうものが僕のなかにあるだろうか、と。『人のお世話にならぬよう』は、自分のことは自分でやりなさいということですが、『なんでやってくれないんだよ』と思ってしまうことがある。それって、すごくダメですよね」